研究実績の概要 |
大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座で手術され、パラフィン包埋切片が利用可能な粘液産生性細気管支肺胞上皮癌(新WHO分類ではinvasive mucinous adenocarcinoma, IMA)の症例10例について、genomic DNAを抽出、Ion AmpliSeq Cancer Hotspot Panel v2によるターゲッテッド理シーケンシングを行った。遺伝子変異としては、K-ras変異4例、TP53変異3例、他、STK11変異、PIK3CA変異、EGFR変異、ATM変異をそれぞれ1例に認めた。上記いずれの変異も認めなかった症例は4例であった。一方で、コピー数の変化としては、RB1のlocusである13q14.2とSTK11のlocusである19p13.3-11のコピー数低下が認められた。特に、STK11のコピー数低下をMLPA法により確認した結果、17プローブを用いた解析(SALSA MLPA probemix P101-B2, MRC-Holland)で解析可能であった8例中4例において、正常部と比較し癌部でのSTK11のlossが確認された。 一方、IMAの切除検体からの組織培養、細胞株の樹立について、まず混在する線維芽細胞が少なく、物理的な細断が不要な体腔液(胸水)からの樹立を試みた。院内倫理委員会での審査を通過し、当該患者からの文書による説明同意を得たのちに、EGFR遺伝子変異陽性肺腺癌からの癌性胸膜炎2症例より胸水中癌細胞の初代培養を行った。その結果、ROCK阻害剤であるY27632 10μMの添加により、接着細胞として継代可能となった。次に比較的線維芽細胞が多い悪性中皮腫症例の胸水からも初代培養を開始、成功した。IMAの切除検体がなかったため、今のところ細胞株の樹立はできていないが、症例があり次第、切除検体からの樹立を行う。
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