研究実績の概要 |
癌剤は治療に際して最大耐容量での投与が推奨されている.しかし,高齢者の多い肺癌患者においては止むなく減量が行われることが 多い.抗癌剤のような増殖抑制効果のある薬剤では,低用量で投与した場合に逆に増殖促進効果を示すことがある.この現象はhormes isと呼ばれている.肺癌のように減量の可能性の高い疾患においては,これは無視できない事象である.それにも関わらず,hormesis 現象の影響範囲,機序についてはこれまで検討なされていない.本研究では,肺癌で使用される各種抗癌剤のhormesis現象を定量化す るとともに,hormesis現象におけるkey moleculeを同定することで,それを特異的に抑制して抗癌剤治療効果を増強させるhormesis抑 制療法の標的分子を定め,全く新しいがん治療のstrategyを提示する.CDDP, 5-FU, DTX, PTX, VNR, GEMについて,hormesisを考慮し たdose-response curveの理論式を検証し,良好に適合することを確認した.ここから,全ての抗癌剤は基本的にhormesis現象を発現 することが推測される.hormesis発現機序を検索するために,EMT阻害剤の添加による効果を検証したが,hormesisの有意な減弱は認 められず,他に発現機序が存在するものと考えられる.また,assay系の安定性に疑問が生じたため,乳癌細胞を用いたestradiolによる増殖系及び手術検体を用いたdose-response curveについても検証したが,同様の結果が得られた.本assay系は妥当と考えられた.今後は,hormesisの抑制についての検証を予定通り進めていく.
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