未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増加しているが、その対応指針は施設によって大きく異なる。近年の多施設共同研究により未破裂脳動脈瘤の破裂率は明らかなサイズ依存性があり、小型瘤とされる7mm未満の未破裂瘤に関しては年間破裂率0.5%程度と報告されている。 複雑に絡み合う様々な要素を判断分析に取り入れるため、マルコフモデルを作成した。未破裂瘤の有無、そして後遺症の有無から健康状態を設定し、一定確率で健康状態間での移行が起こると仮定、疫学データに矛盾しない脳動脈瘤の自然歴数学モデルとした。また、モデル作成の基本となる各年齢の年間死亡率の数式化は、各年齢死亡率を本邦の公式統計サイトであるe-Stat (www.e-stat.go.jp)から取得、年齢xでの死亡率p(x)は男性pmale (x) = 0.0000202・e0.0985x、女性pfemale (x) = 0.00000424・e0.111xと近似数式化が可能であった。各年齢の死亡率をマルコフモデルに投入し、未破裂瘤を有するそれぞれの患者にとっての生命予後、機能予後の損失を算出する検討を行った。 未破裂瘤を有する患者がクモ膜下出血で死亡する確率は、当該患者が60才で死亡した場合、男性25%、女性40%であったが、この確率は、患者の死亡年齢が上昇すると急速に減少した。一生涯で換算すると、小型瘤患者の90%以上はクモ膜下出血以外の原因で死亡すると予想された。小型瘤を有するための生命・機能予後の損失は60才男性で3.8%、女性で4.2%であったが、この影響は若年女性でより大きく、高齢男性でより小さくなった。一般人と小型瘤患者の健康寿命カーブを年齢別に作成すると、小型瘤の影響は比較的小さく、予防的治療介入の効果は期待しづらいものと考えられた。とりわけ、高齢患者に対する治療介入は有害である可能性が高い。
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