研究課題/領域番号 |
15K10298
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
降旗 建治 信州大学, 医学部, 特任准教授 (90021013)
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研究分担者 |
後藤 哲哉 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (30362130)
本郷 一博 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (00135154)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 頭蓋内圧 / 脳室ドレナージ / 頭蓋内圧センサー / 非侵襲的頭蓋内圧類推法 / 外耳道圧波形 / 総頚動脈圧波形 / ロジステックモデル / 重回帰分析 |
研究実績の概要 |
〔はじめに〕頭蓋内圧を知るためには頭蓋内圧センサーを設置するか、脳室ドレナージ圧から類推したり、開頭外減圧した部分を触診したりするが、いずれも手術を必要とする。これまで多くの非侵襲的頭蓋内圧類推方法が検討されてきたが、現時点で一般化され広く使用されている装置はない。ところで頭蓋内圧が亢進すると、脳コンプライアンスが低下するため、血圧に連動した頭蓋内圧波形は先鋭化し、外耳道圧波形も連動する傾向がある。我々はこの変化に着目し、外耳道圧波形から頭蓋内圧を類推する研究を行っており、その進捗について報告する。 〔対象と方法〕信州大学医学部医倫理委員会の承認後、2013年7月から治療のため脳室ドレナージもしくは頭蓋内圧センサーが設置された患者に対して、同意を得た上で、ドレナージもしくはセンサー圧と同時に外耳道圧波形を記録した。脳室ドレナージは回路に観血的圧センサー(SCK-7604: Argon社)を接続し記録した。頭蓋内圧センサーはすべてカミノプレッシャーモニタリングカテーテルであった。外耳道圧は専用の音圧センサ(ECMマイクロホン)を用い、90dB以上の音圧が得られる状態を有効として200Hzサンプリングで記録し、オフラインで解析した。 〔結果〕解析データは合計29名分であり、実測頭蓋内圧範囲は4~100cmH2Oである。統計解析は、患者の性別、年齢、BMI(体重/身長*身長)、上腕収縮・拡張期血圧とともに5秒ごとの外耳道内圧波形情報(計50要因)で行った。このデータに基づくロジスティックモデルによる重回帰分析結果では、類推値と頭蓋内圧との一致率(決定係数)は、0.994で、推定値の標準誤差は1.791 cmH2O である。 〔結論〕外耳道圧波形は頭蓋内圧を類推するのに必要十分な情報を含んでいることが示唆された。さらに症例を重ねることで、類推精度を高めることができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床試験は、患者数 34 名まで実施でき、脳室ドレナージ圧が 5~80cmH2O の範囲、および Camino 硬膜外圧センサーが 20~110cmH2O の範囲で、両者と同時に外耳道圧波形と総頸動脈圧波形が取得できた。 交流成分である外耳道内圧脈波だけから直流成分である頭蓋内圧がどの程度推定可能であるか、患者の性別、年齢、身長、体重、BMI、上腕収縮・拡張期血圧とともに5秒ごとの外耳道圧波形、1階微分した速度波形と2階微分した加速度波形(ピーク値、平均値、実効値、波形率、波高率、正側の標準偏差値、負側の標準偏差値)情報、並びにスペクトル情報(自己回帰モデルに基づくスペクトル包絡、ホルマント周波数と先鋭度)等50要素に基づいてロジスティック重回帰分析と判別分析を行った。 重回帰分析は、最初にロジスティックモデルで各要素を正規化し、実測頭蓋内圧(MICP[20cmH2Oを基準としたdB表示])が累積正規分布曲線に近似できることを確認した。次に、その累積曲線の20%区間ごと5グループに分割し、グループごとに重回帰分析を行った。その結果は、頭蓋内圧の実測値と推定値の対応関係は、決定係数が 0.9941(相関係数 0.997)であること、推定値の標準誤差は 1.791 cmH2O であることなどがわかった。 上記5グループ判別分析結果は、元のグループ化されたケースのうち 83.6% が正しく分類された。また、新たな患者の場合は、統計解析した患者データ(50要素)との相関係数が0.95以上得られれば確実に頭蓋内圧推定可能であるといえる。しかし、両者の相関係数値がそれ以下の場合は上記推定精度が保証されないこともわかった。
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今後の研究の推進方策 |
頭蓋内圧亢進の症状は、何らかの要因により脳の体積が増加し頭蓋骨内の圧力が高まることである。統計的な5グループへの判別分析結果では、頭蓋内圧が低い1グループと高い5グループとが誤判定される場合があった。その原因として、頭蓋内における圧力と体積との関係は、指数関数的に増加するが、頭蓋内圧が70~100cmH2Oまで上昇すると飽和状態になり、傾斜が緩やかになる。この傾斜は1グループと5グループが似ている。結果として、両者の外耳道圧波形要因の相関係数が高くなるためであると考えられる。 頭蓋内圧の類推精度を高めるために、普遍的な頭蓋内物理モデルに基づく測定原理の構築を目指して、等価電気回路頭蓋内モデルによる新たな推定法を検討する。 基本的な頭蓋内物理モデルは、入力としての総頚動脈圧波形と出力としての外耳道圧波形を計測して、頭蓋内圧を類推するモデルを構築する必要がある。つまり、頭蓋内圧と最も関連する脳コンプライアンス(Intracranial Compliance)は、両者の圧波形情報に基づく伝達関数と単純な等価電気回路頭蓋内モデルとの対応関連から推定する方法を確立する。類推した脳コンプライアンス指数は、頭蓋内血液循環器系の血管と脳組織のばね定数、すなわち頭蓋内エラスタンス(Elastance)と頭蓋内圧(ICP)との積の逆数で表される。したがって、ICP値は脳コンプライアンスと頭蓋内エラスタンスが類推できれば求めることができると考えられる。 また、頭蓋内圧はある程度高くても安定していれば生命に危険がない。しかし、頭蓋内圧の急な変化は、あまり高くなくても生命をおびやかすことがある。この生命の危険度を判定できる機能を備えた非侵襲頭蓋内圧モニタリング医療機器の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画した設備備品費「オムロンデジタル自動血圧計HEM-9000AI」は、座位のまま、橈骨動脈測定により、推定中心血圧(cSBP)を算出するものである。しかし、我々が使用している頸動脈センサーは、患者が寝たままの状態で、より中心血圧を算出できることが分かったので、購入しなかった。 そこで、本年度は主として統計解析に必要なPCソフトウェア、具体的にIBMソフトウェアの「SPSS Statistics」を購入した。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額はH28年度請求額と合わせて、下記のように使用を計画している。 本年度の課題、「蓋内物理モデルと等価電気回路モデル」に関するシミュレーションのため、信号処理用ソフトとして、MathWorksソフトウェアのMATLAB2016aを購入する。さらに、医療計測の高速信号処理専用PCとして、高性能ノートパソコンを購入する。
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