研究課題/領域番号 |
15K10298
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
降旗 建治 信州大学, 医学部, 特任准教授 (90021013)
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研究分担者 |
後藤 哲哉 信州大学, 医学部附属病院, 助教 (30362130)
本郷 一博 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (00135154)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非侵襲頭蓋内圧モニタ / 外耳道内圧脈波 / 頭蓋内圧脈波 / 脈波波形情報 / 多層パーセプトロン解析 / 仰臥位 / 累積確率密度関数 / 累積パワースペクトル密度関数 |
研究実績の概要 |
我々は、2013年度に信州大学医学部倫理委員会の承認後、治療のために頭蓋内圧(intracranial pressure: ICP)の測定を行っている患者に対してインフォームドコンセントを得たうえで、ICP と外耳道内圧(external auditory canal pressure: EACP)脈波の同時測定を行った。これまで、JSPS 科研費 JP15K10298 「外耳道内圧脈波による非侵襲的頭蓋内圧測定法に関する研究」による臨床試験の患者数は、40名(男性23名、女性17名、平均年齢56歳)である。得られた5秒間隔ごとの有効データ数は合計 6391 個であり、その実測 ICP 範囲は 0.95~101.6 cmH2O である。 最初に、EACP 脈波は ICP の「ある臨界値」より高いか低いかを判別するのに十分な情報を含んでいるかどうかを検討した。その際、EACP 波形情報は、圧力振幅(Pa)と周波数(Hz)に対する累積ロジット確率密度関数に基づく独立要因 25 種類を選定した。その結果、最終的に判別できた「ある臨界値は 55 cmH2O 」であり、結果的に対象患者の頭蓋内圧がこの臨界値以下か以上かの判定正答率は 100 % であるといえる。 次に、その臨界値以下は、患者数37名に対して対象患者データの学習なし統計解析法(ある患者データを削除して深層学習し、新たな患者と想定してICP推定値を求めた)を検討した。その結果、多層パーセプトロン解析(MLP)法による推定 ICP 誤差の許容範囲(95%信頼区間)は、「ICPが 1~30 cmH2O の範囲で ±5.9 cmH2O であり、および 30~55 cmH2O の範囲で±8.4 cmH2O」 である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
医療測定器としての頭蓋内圧(intracranial pressure: ICP)値は、直流成分であり、脳室ドレーンや ICP センサ設置など侵襲的な方法でしか得られない。一方、蝸牛水管と内耳の解剖学的所見から、 ICP の影響を受けた交流圧変動は、内耳・中耳・鼓膜を介して外耳道内圧(external auditory canal pressure: EACP)脈波として観察できる。頭蓋内圧が亢進すると、脳コンプライアンスが低下するため、血圧に連動したICP波形は先鋭化し、EACP波形も連動する傾向がある。本研究では、治験を実施して「安定したICP測定精度を維持したEACP波形情報の深層学習による非侵襲的 ICP 推定法の確立」を目的として検討してきた。 その研究過程で、深層学習は、隠れ層の数が2、隠れ層1のユニット数20程度、隠れ層2のユニット数16程度のニューラルネットワークによってEACP脈波の次数64の自己回帰モデルAR(64)による反射係数RC(64)から抽象度の高い内部表現を獲得でき、ICPの推定精度も明らかになってきた。その一方で、単純な測定原理モデルとして、脳脊髄液系の固有共振周波数は、脳組織質量と脳脊髄容積コンプライアンスによって決定できることが明らかになった。この共振周波数が計測できれば、非侵襲的 ICP 推定法は、最終的に確立できることが示唆される。この観点から、理論的な構築とその原理の検証を試みている。このICP推定原理をより精緻に達成するために科学研究費助成事業補助事業期間延長申請を提出し、受理された。 深層学習が非侵襲的ICP推定法に適用でき、高い推定精度が達成できる可能性は高いといえる。しかし、測定原理の観点から見た内部表現学習手法も確立しないと学術論文としての価値が無いと判断したため、進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
(a) 外力として正弦信号・白色雑音・インパルス的信号等で加振できれば理論通りの脳脊髄液系の固有共振周波数特性が測定できる。しかし、ここでは、血液循環器系の外力のみで脳脊髄液系のコンプライアンスによる共振系を特定しなければならない。頭蓋内の血液循環器系は、頭蓋内の振動モード特性と複雑にカップリングし、多重共振系特性を示し、強烈なフォルマント構造を示す。したがって、このフォルマント特性を解析しても脳脊髄液系のコンプライアンスの影響を受けない可能性がある。そこで、新たな外耳道内脈波信号解析法を工夫し、脳脊髄液系の固有共振周波数を検出して、ICPの推定方法を構築する。 (b) 深層学習は、実測 ICP 値から計算できる 脳脊髄液系の固有共振周波数(Hz)を目的変数として、EACP から本質的な情報を抽出した内部表現・潜在表現・特徴を多層パーセプトロンニューラルネットワーク(multilayer perceptron: MLP)によって行う。 (c) 新規患者に対して学習したMLPで推定したICPと実測ICP(measured ICP: MICP)から、測定精度を検証する。治験は、ICP推定誤差の95% 許容範囲が ±5cmH2O以下となるまで実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、予定していた論文投稿ができなかったためである。 本研究の目的をより精緻に達成するには、非侵襲ICPモニタの測定原理、原理の検証、およびICP推定法の確立等、論文投稿に耐えうる内容にする必要がある。そのために次年度使用額「211,100円」は、論文投稿費用および英文校正費用として使用する予定である。
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