研究課題/領域番号 |
15K10307
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
東 洋一郎 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (80380062)
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研究分担者 |
上羽 哲也 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (00314203)
齊藤 源顕 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (60273893)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ミクログリア / 脳卒中後遺症 / キレータブル亜鉛 |
研究実績の概要 |
[具体的な内容] 昨年度までの研究により、1. マウスの脳室内への亜鉛キレート薬前処置は、脳虚血再灌流処置による海馬での炎症性サイトカイン(IL-1b、IL-6、TNFa)の発現増加を抑制した。2. 脳虚血再灌流後3日目にマウスの海馬ミクログリアにおいてM1型活性化(神経傷害性機能が誘導される活性化)分子マーカーであるCD16/32の発現誘導が認められた。3. 脳虚血再灌流後のCD16/32の発現誘導は亜鉛キレート薬前処置により抑制された。4. 亜鉛キレート薬前処置は脳虚血再灌流処置により惹起されるマウスの認知機能障害を阻止した。 [意義、重要性] 脳卒中は主要な死亡要因である。昨今の医療進歩により死亡率は減少している反面、患者数は依然と多く、治療後も深刻な後遺症が長期にわたって持続することが少なくない。特に認知機能障害など深刻な後遺症は患者の生活の質を著しく悪化させることから重大な問題と認識されている。このような後遺症の発症には、ミクログリアのM1型活性化とこれによる過剰な炎症反応が大きく関与していることが指摘されている。一方、脳内キレータブル亜鉛は海馬グルタミン酸神経細胞内に貯蔵されており脳虚血再灌流時に細胞外へ放出される。しかしミクログリアのM1型活性化への関与に関して不明であった。これに対して昨年度までの検討結果は、脳虚血再灌流時に細胞外へ放出されるキレータブル亜鉛がミクログリアのM1型活性化誘導の促進と過剰な炎症反応を介した認知機能障害に関与することを示唆する世界で初めての知見であり、これらは未だ存在しない脳卒中後遺症、特に認知機能障害の予防法ならびに治療法の開発に繋がる意義深い知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度の検討では、キレータブル亜鉛が初代培養ミクログリアのM1型活性化誘導を促進することを見出し、さらにその分子機序を解明した。これを受けて昨年度の検討では、脳卒中モデルマウスを用いて培養系での知見の実証を試みた。その結果、細胞外へ放出されるキレータブル亜鉛が海馬におけるミクログリアのM1型活性化誘導の促進と過剰な炎症反応を介した認知機能障害に関与することを示唆する知見を得ることが出来た。当該研究の最終目的は、キレータブル亜鉛に着目しながらミクログリアの機能を制御し、脳卒中後遺症を予防または克服する方法を開発することである。この点において昨年度は、脳内キレータブル亜鉛並びにキレータブル亜鉛によるミクログリアのM1型活性化が脳卒中後の認知機能障害に対する予防法または治療法の標的になり得ることを明らかにできたため、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの検討により、脳内キレータブル亜鉛並びにキレータブル亜鉛によるミクログリアのM1型活性化促進効果が脳卒中後の認知機能障害に対する予防法または治療法の標的になり得ることを明らかになった。 そこで今後の推進方策は以下の通りとする。 1. 脳内キレータブル亜鉛が関与する脳卒中後遺症が認知機能障害以外にも存在するか否かの検討。2. 初代培養ミクログリアを用いて、キレータブル亜鉛が惹起する炎症促進効果を抑制する化合物の探索。3. 2.で見出した候補化合物のうち脳卒中後のミクログリアのM1型活性化ならびに過剰な炎症反応を抑制する化合物の絞り込み。4. 3. で絞り込んだ候補化合物のうち脳卒中後の認知機能障害を抑制する化合物の同定。
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