最終年度はマウスの脳における一酸化炭素 (CO) による二酸化炭素 (CO2) の産生制御、及び脳虚血時の血流維持の可能性について検証した。まず定常状態の野生型マウスとCO産生酵素ヘムオキシゲナーゼ-2 (HO-2) 欠損マウスの脳のCO2濃度をガスクロマトグラフ質量分析計を用いて測定した。13C標識グルコース投与10分後、野生型マウスと比較してHO-2欠損マウスの脳では13CO2の濃度が高い傾向が見られ、定常状態でCOは解糖系のfluxを抑制することでCO2産生を低値に保っている可能性が示唆された。次に左中大脳動脈閉塞による局所脳虚血モデルにより、脳梗塞時におけるHO-2のCO2産生に及ぼす影響について検討を加えた。13Cグルコースを投与したHO-2欠損マウスの13CO2濃度は、特に非虚血側において野生型マウスと比較して約75%に減少していた。このことから脳梗塞時にはHO-2は非虚血部位においてもCO2産生を一定のレベルに保つ役割を担っていることが示唆された。さらに研究期間全体を通して多光子レーザー顕微鏡による局所脳血流の測定を行い、最終年度は脳虚血時にHO-2によって保たれていることが予想されるCO2が脳血流を維持する可能性について検証した。マウスの総頸動脈に遠隔操作可能な血管結紮用のデバイスを設置し、多光子レーザー顕微鏡で全脳虚血前後の脳局所血流を測定した。結果、脳全体が虚血に陥った場合ではHO-2によるCO2の産生制御は脳血流の維持には寄与しない可能性が示された。これら最終年度に得られた知見は研究期間前半で得られたCOによるグルコース代謝制御と、その脳虚血時の役割をより詳細に示した意義を持つ。また脳のエネルギー代謝制御におけるHO-2による低酸素応答のin vivoでの検討結果は、虚血モデルの選択などの課題を示唆した点においても重要な知見であると考えられる。
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