研究課題/領域番号 |
15K10323
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
福田 俊一 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 糖尿病研究部, 主任研究員 (10600546)
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研究分担者 |
下權谷 祐児 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (30552575)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / 壁ずり応力 / 動物モデル / 計算流体力学 / 乱流 / 臨床研究 / P2X4プリノセプター |
研究実績の概要 |
ヒト脳動脈瘤のCFD解析に関しては、ヒト中大脳動脈瘤症例で瘤を人為的に取り除いて瘤発生前の血管形状モデルを力学的解析に基づいて近似的に再現し、瘤の発生しなかった対側の正常分岐部とwall shear stress (WSS)、Oscillatory shear index (OSI)、WSS gradient (WSSG)、Gradient oscillatory number (GON)、transverse WSS (transWSS)、Normalized transverse WSS (NtransWSS)などの血行力学量の分布を比較した。個々の症例の血流速度から算出された血流値に加え、従来一般的に用いられてきた文献上報告されている健常成人の平均値を用いた場合も流入口境界条件に用いた。結果、流入口境界条件に個々の症例の血流速度を用いた場合に限って、我々が新たに提唱した多方向性の乱流の程度を表す力学指標であるNtransWSSのみが有意に脳動脈瘤発生側で高値であることが示され、脳動脈瘤発生において強い多方向性の乱流が関与している可能性が示唆された。さらに、脳動脈瘤発生が進展していくと考えられる動脈瘤頚部における血行力学因子の分布を検討したところ、WSS、WSSG、NtransWSSが周囲の血管と比較して有意に高値であった。 動物実験に関では、P2X4 purinoceptor遺伝子欠損マウスに脳動脈瘤誘発処置を施し免疫組織学的検討を行った結果、脳動脈瘤発生に関与していることが報告されているiNOS、COX-2、cathepsin L、MCP-1などのimmunoreactivityがwild type群と比較してP2X4遺伝子欠損マウス群で著しく低下していることが示され、血管内皮細胞において壁ずり応力センサーが過度な壁ずり応力を感知することが、その後の脳動脈瘤発生経路のinitiationである可能性が示唆され、我々の仮定が支持される結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト脳動脈瘤のCFD解析に関しては、平成27年度では既存の血行力学量における動脈瘤発生との関連性を検討するため、これまでに提案されている様々な血行力学因子の分布を検討し、まず有意差のある力学量をスクリーニングする計画であった。本年度の研究結果より、我々が新たに提唱した多方向性の乱流の程度を表す力学指標であるNtransWSSをはじめ、WSSおよびWSSGが脳動脈瘤発生に関与している可能性が示唆され、初年度の目標は達成された。 脳動脈瘤誘発動物実験に関しては、マウスを用いた実験では免疫組織学的検討を行う計画であった。マウス実験では、免疫組織学的検討を行った結果、wild type群と比較してP2X4 purinoceptor遺伝子欠損マウスにおいて脳動脈瘤発生に関与していることが報告されているiNOS、COX-2、cathepsin L、MCP-1などの発現が著しく低下していることが示され、平成27年度の目標が達成された。 ラットを用いた実験では、平成27年度中にP2X4阻害剤paroxetine投与群と非投与群における脳動脈瘤発生率を比較検討する計画であったが、ラット実験設備の準備が遅れたため、実験はすでに開始しているものの、未だ結果を得るには至っていない。当初の計画では、paroxetineを10および20mg/kg/day投与する予定であったが、20mg/kg/dayを投与するとラットは数日で死亡することが判明したため、非投与群と10mg/kg/day投与群の2群で比較するよう計画を変更した。 上記結果について、国際学会で3つの発表、国内学会等で4つの発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト脳動脈瘤のCFD解析に関しては、平成27年度の結果を発展させて、検討する症例数を増やし、また中大脳動脈瘤以外の発生部位の動脈瘤に関しても検討を行い、その成果を論文として発表したい。 脳動脈瘤誘発動物実験に関しては、ラットを用いた実験で現在施行中であるP2X4阻害剤paroxetine投与群と非投与群における脳動脈瘤発生率の比較検討実験を完成させ、さらにマウスを用いた免疫組織学的検討結果でP2X4 purinoceptor遺伝子欠損マウスにおいて発現の低下が認められたiNOS、COX-2、cathepsin L、MCP-1などの脳動脈瘤発生におけるbiochemical contributorに対して、RT-PCR法による発現mRNAの比較検討を行いたい。期待された結果が得られた場合は、論文として発表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度にCFD解析を継続するため、CFD解析ソフトの保守費用が必要である。また、動物実験を施行するためには、ラットおよびマウス購入・飼育費、免疫染色およびRT-PCR法による実験を施行するための試薬等の費用、国内外学会発表・論文報告のための費用を要する。
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次年度使用額の使用計画 |
CFD解析ソフトの保守費用、ラットおよびマウス購入・飼育費、免疫染色およびRT-PCR法による実験を施行するための試薬等の費用、国内外学会発表・論文報告のための費用を、昨年度からの繰越金を合わせてまかなう予定である。
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