研究課題
近年の医療技術の著しい進歩にも関わらず、浸潤性に発育する悪性グリオーマ治療は抜本的な改善に至っていないのが現状である。我々はこれまでにiPS細胞作製に必須の山中因子の一つであるOct-3/4がグリオーマの様々な予後不良(腫瘍幹細胞性、浸潤、血管新生、薬剤耐性)に正の相関を示すことを見いだしてきた。本研究はOct-3/4の発現を抑制する化合物を探索し、グリオーマ治療の「万能薬」として開発していくことを目標としている。平成29年度はOct-3/4プロモーター下でGFPを発現するヒト膠芽腫T98G細胞(T98G/Oct-p-GFP)を樹立し、金沢大学がん伸展研究所より供与を受けた化合物ライブラリーを用いてOct-3/4の発現を抑制する化合物のスクリーニングを行った。T98G/Oct-p-GFP 細胞はヒトOct-3/4-p-GFPプラスミドを遺伝子導入し、薬剤選別後に限界希釈法を用いてシングルセルクローニングにより樹立した。樹立した数クローンの中からGFP発現の高いものを実験に用いた。FDAで承認されている化合物ライブラリー(640種)を用いてGFPの蛍光強度減弱(controlに比べGFP蛍光強度が50%未満に抑制)を指標にスクリーニングを行ったところ、薬理作用的に4つのグループに分けられる薬剤10数種類を得た。現在、臨床的にも有用性が高いと考えられる1つのグループの代表化合物について、Oct-3/4によって機能亢進が認められたグリオーマ悪性因子がどのように変化するかを検討している。またそれと並行して新たな化合物ライブラリーを用い、さらなるOct-3/4発現抑制化合物のスクリーニングを行っているところである。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度はOct-3/4プロモーター下でGFPを発現するグリオーマ細胞を樹立するとともに、スクリーニングのアッセイ系を確立した。その後、実際に640種のFDA承認化合物を用いてGFP蛍光強度の減弱を指標にスクリーニングを行った。薬理作用的に4グループに分けられる10数種類の化合物がヒットした。Oct-3/4による機能亢進が認められたグリオーマ悪性因子がヒット化合物の添加によってどのように変化するか検討を進め、プレリミナリーではあるがOct-3/4により亢進した機能が抑制される結果を得ている。GFPの発現強度変化によるアッセイ系の確立に時間を要したものの、順調に候補化合物が得られ、実際にOct-3/4の発現抑制も確認している。現在は臨床への展開を念頭にさらなる解析を進めており、研究は順調に進んでいると思われる。
(1)候補化合物がOct-3/4の機能抑制効果についてさらに詳細な検討を行う。(2)現在得られている候補化合物の効果を細胞レベルだけでなく、個体レベルでも検討していく。(3)新たな化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを並行して進め、新たな候補化合物を増やしていく。
出張旅費を支出しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は主として物品費として使用する。
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Biochem Biophys Res Commun.
巻: 496 ページ: 542-548
10.1016/j.bbrc.2018.01.065.