研究課題/領域番号 |
15K10325
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
浅野 研一郎 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90312496)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性グリオーマ / プラスミン / 細胞融解 / 細胞吸着 / プロティオグリカン |
研究実績の概要 |
悪性グリオーマが予後不良である原因の1つとして、腫瘍細胞の浸潤性の強さがあげられる。そこで申請者は、腫瘍細胞の浸潤を防止し、一カ所に遊走沈着させることにより効率的な治療が可能になると考え、以下の経過で研究を発展させてきた。1)腫瘍摘出術後、グリオーマ細胞に対して間接的細胞接着因子増強作用を有する分子標的治療薬を摘出面に塗布し、腫瘍細胞を凝集させることに成功した。2)高濃度プロティオグリカン人工基質を重層し、グリオーマ細胞を人工基質へ吸着させる実験モデルを開発した。3)腫瘍細胞を吸着させた高濃度プロティオグリカン人工基質に対する局所的放射線照射モデルを開発し、その有効性を証明した。 申請者が開発したこの治療プロセスにおいて、人工基質の遺残と放射線に起因する肉芽反応が解決すべき問題であった。人工基質はフィブリンであり、融解させるにはプラスミンが必要である。従来の実験では人工基質に生体の血管は入りづらく、プラスミノーゲンの血液からの供給はない。よってtPA 製剤の投与は無効と考えられ、プラスミンの直接投与が必要と考えられた。そこでプラスミンを定位的に人工基質へ直接投与し、融解・排出させる。プラスミン融解療法は硝子体黄斑癒着症や特発性黄斑穿孔症、さらには糖尿病性網膜症に伴う症候性硝子体黄斑癒着症に対する硝子体切除術における前処置として実用化されており、本治療により手術回避率も向上している。プラスミン融解療法を応用した悪性グリオーマに対する治療試みは国内外を問わず全くされておらず、本研究が初めてである。 そこで今回の研究では、放射線を行うことなく人工基質をプラスミンを用いて融解排出させ、効率的に遺残腫瘍を根絶させることを目標とし実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度はIn Vitroプラスミン融解療法の確立を目標とした。In Vitro の実験において、プラスミンの人工基質への融解反応性を確認し、本プロジェクトの研究基盤が確実で次年度以降のプロジェクトが可能であることを確認することを最大の目標とした。以下の手順で研究を進めた。 1)基底膜を模して作られたECMatrigelにC6-GFP を入れ 48 時間インキュベートし浸潤モデルを作成し、ECMatrigel 10nmol G6-GFP 5x106コが至適条件であることを確認。 2)至適濃度0.1nmol/mlのAG1478を上記条件のECMatrigelへ投与。抗腫瘍効果と間接的N-Cad増強作用により、C6-GFP を凝集させる。 3)高濃度プロティオグリカンとフィブリングルーで人工基質を作成、上記条件のC6-GFP を遊走させ人工基質に吸着させることに成功。 4)約1週間反応させた後、プラスミンを種々の条件で投与する。 5)至適投与量を求めるたが、10.0Mの高濃度でも周辺10mm付近の人工基質遺残が認められた。培養日数やプラスミンの投与条件を変更し、もっとも効果的に融解させる投与条件を求めたが、やはり血流がないところでは限界があると判断された。 実験解析として、病理標本を作成し定性評価をしたところ上記と同様周辺遺残が認められた。画像解析ソフトを用いて ECMatrigel に残存する C6-GFP の有無、人工基質に遊走したC6-GFP、融解液中の細胞数を計測し、効果を検討したが、融解物内に生存腫瘍細胞はほとんどないことが確認された。しかし周辺遺残物には生存細胞がみられた。さらにクレシールバイオレッドにて細胞染色し、脱色後吸光度計にて定量判定する。
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今後の研究の推進方策 |
前年度解決策として追加実験でやり直した、セルロプラスミン2回注入療法の実験解析と病理標本による検証がまだ終了していないが、およそ経過良好と考えられ、本研究のin vivoへの応用は可能なレベルに到達していると考えられる。そこでこの検討が終了した後in vivoの実験に移る。 実験手順としては1)深麻酔下、ラット右前頭葉へ定位的に C6-GFP 細胞を 10νl(1×106/ml)接種する。2)2 週間後、深麻酔下、開頭にて脳腫瘍摘出術を行う。なお腫瘍細胞は GFPがあるため、蛍光実体顕微鏡下に脳腫瘍摘出術を行うことが可能である。3)腫瘍摘出後AG1478 を摘出面に局所投与し、摘出腔に高濃度プロティオグリカン人工基質を注入する。 4)3 週間目、前年度求めた至適投与量を元に定位的にプラスミンを局所投与する。 5)数日後(前年度の反応条件にて求める)再度定位的に穿刺排液・洗浄する。 前年度の追加実験の結果次第では2回目プラスミン注入があり得る。6)4 週間目安楽死させ、脳を摘出し標本作製する。 実験解析としは1)摘出標本の病理標本作成を行い定性評価を行う。また排液検体の細胞成分の確認を行う。2)画像解析ソフトを用い、脳内に腫瘍細胞が残存していないか、また人工基質が残存していない かどうか確認する。もし腫瘍細胞の残存があるようであれば定量評価を行う。同時に周辺脳組織のプラスミンの影響を検討する。3)もし一回のプラスミン投与で人工基質が完全に融解されていない場合、または前年度の実験で複数回投与が必要と判明した場合、以降の実験では複数回プラスミンを投与する。 以上の in vivo の実験より、脳内の高濃度プロティオグリカン人工基質内の腫瘍細胞が効率よく処理されていること、周辺脳組織の浮腫や、周辺脳組織のプラスミンによる障害がないことを確認する。
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