悪性グリオーマが予後不良である原因の1つとして、腫瘍細胞の浸潤性の強さがあげられる。そこで本研究では、腫瘍細胞の浸潤を防止し、一カ所に遊走沈着させることにより効率的な治療が可能になると考え、以下の経過で研究を発展させてきた。 1) 腫瘍摘出術後、グリオーマ細胞に対して間接的細胞接着因子増強作用を有する分子標的治療薬を摘出面に塗布し、腫瘍細胞を凝集させることに成功した。2) 高濃度プロティオグリカン人工基質を重層し、グリオーマ細胞を人工基質へ吸着させる実験モデルを開発した。3) 腫瘍細胞を吸着させた高濃度プロティオグリカン人工基質に対する局所的放射線照射モデルを開発し、その有効性を証明したが、人工基質の遺残と放射線に起因する肉芽反応が問題であった。そこで今回の研究では、放射線を回避し人工基質をプラスミンを用いて融解排出させ、効率的に遺残腫瘍を根絶させることを目的とした。 前年度までのin-vitroとin-vivoの実験より以下の如くプロトコルを決定した。1)ラット定位的に C6-GFP細胞を10μ(1×10・6乗/ml)接種。2)2週間後、開頭にて脳腫瘍摘出術を行う。3)腫瘍摘出後0.1nmol/ml AG1478を摘出面に局所投与し、摘出腔に10nmol/ml高濃度人工基質を注入する。4)3週間目定位的に10.0Mプラスミンを局所投与する。5)2日後(再度定位的に穿刺排液・洗浄後2.0mMプラスミン注入。以下2群で比較した。①高濃度プロティオグリカン人工基質にプラスミンを投与せず放射線照射をする群(コントロール群)、②プラスミンを投与する群(プラスミン群)。結果としてはプラスミン群の有意性が証明され、長期生存実験でも平均生存71日(28~99)と91日(31~129)であり有意差がみられた。
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