研究実績の概要 |
本研究は、低悪性度グリオーマの悪性転化に係わる遺伝子変化を見出すことを目的とした。 研究開始前に収集済みの検体に前年度迄に新規に収集した31患者検体を加え、さらに今年度新たに5患者から脳腫瘍検体および血液検体を収集した。この中には、IDH1,2変異についての抗体による病理情報が無いものが含まれるため、事前変異スクリーニングを行った。全100検体のうち、23検体にIDH1遺伝子R132変異を、1検体にIDH2遺伝子R172変異を見出した。 主解析対象は、予後良好マーカーIDH1変異陽性で悪性転化した症例(悪性転化検体)とした。本症例の悪性転化前/後の腫瘍検体および血液のNGS解析により全エキソーム配列情報を取得した。事前検討により悪性転化前検体の腫瘍均質性が低いことが想定されたため、CLC ゲノミクスワークベンチ解析ソフトと検出力が高いFPVD法で解析した。 全20,950個の塩基変化が検出された。これは、非同義塩基変化1,825個、悪性転化後の検体特異的な260個、COSMIC癌体細胞突然変異情報陽性64遺伝子94個であった。脳腫瘍の高頻度変異遺伝子のうち、TP53およびPDGFRAのみ、悪性転化後検体にて変異を見出した。他遺伝子の非同義塩基変化については、アミノ酸保存性や、GO情報により評価すると共に、別の悪性転化が疑われる同一患者について、同様に、悪性転化前/後の検体および血液について、次世代シーケンサ解析を行った。 血中分泌膜小胞に内包される遺伝子と蛋白の抽出・解析について基礎研究を行った。本計画以前に既収集済みの血液検体は、抗凝固剤添加の凍結保存全血であり、精製用試料として不適当なため、一昨年度収集分より、検体獲得時に血漿成分と単核球を分離し収集した。本試料を用い、その変異についての血液中の分泌膜小胞からの同定により悪性度に関する、侵襲度の低い鑑別検査法の確立に役立てる。
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