研究実績の概要 |
膠芽腫は、殆ど予後の改善が見られない疾患の一つである。治療抵抗性の原因として、腫瘍と正常部の境界が無く、腫瘍が正常脳へ浸潤拡大することが原因として挙げられる。膠芽腫に対して手術療法・化学療法・放射線療法の集学的治療が標準治療であり、標準治療にホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の追加が有効、との報告がある(Kawabata S. et al, J Radiat Res, 2009)。 BNCTの原理はホウ素同位体(元素記号 10B)を細胞へ取りこませ、中性子照射する。それにより、核分裂反応(10B+1n → 7Li + 4He)が起こり、Li粒子とα粒子が発生する。核反応により発生する高エネルギー付与のLi粒子やα粒子は数ミクロンしか拡がらない。そのため、悪性腫瘍細胞内でのホウ素中性子捕捉反応は、悪性腫瘍細胞のみを破壊し、周囲の正常細胞を傷つけない。この原理は正常脳への不規則で高度な浸潤傾向を示す膠芽腫には最も適した治療法になると考えられる。 本申請は、「脳腫瘍幹細胞を標的としたホウ素ペプチド開発」に関する研究である。膠芽腫に対するBNCT臨床研究が有効とされているが、まだままだ腫瘍内部へ導入されるホウ素薬剤や腫瘍部におけるホウ素濃度を評価するシステムがない。本研究において、悪性神経膠腫・脳腫瘍幹細胞へ利用可能なペプチドで運搬する新規ホウ素ペプチドの開発ならびにPETによるホウ素ペプチドの薬物動態評価を行う。薬剤のデザインは、臨床応用を考え、シンプルなデザインでありながら高機能化を有する薬剤とする。具体的には、①分子内ホウ素含有率が高い、②安全性が高い ③高水溶性 ④腫瘍細胞・腫瘍組織取り込み能が高い、⑤細胞内部へ導入される(さらに核へ移行)⑥簡便な合成法・シンプルなデザイン(大量合成へ)、⑦薬物動態可能なPET製剤にも対応可能、上記を満たす薬剤開発を目標とし、その研究成果を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞膜通過ペプチドの使用により細胞内に導入されることを当研究室より報告し、この技術を「プロテインセラピー」と名付け、さまざまな生理活性物質を細胞内に導入させた(Michiue H. et al, J.B.C. 2005;280(9):8285-9, Michiue H. et al, FEBS Lett. 579, 3965-9, 2005)。現在までに、この技術を応用し、多数のBSHホウ素化合物に細胞膜通過ペプチドを結合することに成功し、特許取得・論文作成を行った(Michiue H. et al., Biomaterials 2014, 35(10):3396-405, 「細胞透過型ホウ素ペプチド」特願2011-230059)。臨床応用を目標とした場合、合成の簡素化・大量合成法の確立・合成コストの削減などを考慮に入れた新規のホウ素製剤を本研究にて行う。我々の先行研究にて、細胞膜通過ドメインを11個のアルギニン(11R)より3個アルギニン(3R)へ減らしても、導入効率は落ちるものの、細胞内で機能することを報告した(Hitsuda T. & Michiue H. et al., Biomaterials.2012)。3Rドメインは、合成を考慮した場合、非常に簡便であり、合成コストも大幅に削減できる。本手法は、臨床応用へ向けたホウ素ペプチド開発においては、非常に大きな意味を持つと思われる。さらに、3Rよりも短い細胞膜通過ペプチドを探索するためにホウ素製剤BSHと2R・1Rと結合させたBSHペプチドを作成し、本研究に使用した。
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