研究課題
神経線維腫症2型(NF2)は常染色体優性の遺伝性疾患で、神経系に多数の神経鞘腫や髄膜腫が発生するために長期予後も不良である。これまでの調査でも若年発症者では20年で約2/3が死亡しており、国内807名の臨床調査個人票解析で6割は経過が悪化していた。神経鞘腫と髄膜腫は代表的良性腫瘍であるにも関わらず、なぜNF2は予後不良なのか。TCGAデータベースを用いた解析では、核内レセプター、ミトコンドリアと酸化的リン酸化、翻訳制御など、機能予測からDNA修復に関わる癌抑制遺伝子の重要性が指摘されたが、NF2に伴う神経鞘腫と孤発例の神経鞘腫の比較では、遺伝子発現には有意な差はみられなかった。NF2に多発する髄膜腫については、再発例で高頻度にIGF2BP1遺伝子のメチル化が見られたことから、ヒト悪性髄膜腫由来のHKBMM細胞におけるIGF2BP1遺伝子の役割についてCRISPR-Cas9法を用いた遺伝子破壊による低下、PiggyBacトランスポゾン系にtetracycline依存的誘導エレメントを組み込んだ誘導性発現により解析した。IGF2BP1遺伝子破壊により発現が低下した細胞では強い接着を持つ形質が顕著に失われ、細胞の遊走性が増大した。HKBMM細胞はCadherin11(CDH11)を大量に発現し、IGF2BP1遺伝子破壊を行ったHKBMM細胞では細胞間でのCDH11の発現が低下していた。これらの結果より、IGF2BP1遺伝子がRNAのレベルで細胞接着を制御して、生体内での播種を抑制していることが示唆され、易再発性にはカドヘリン依存的な細胞接着を介したIGF2BP1のRNA安定化機構が関わる可能性が示唆された。引き続き、MTAを締結して入手した神経鞘腫細胞株SC4とHE1193と用いて、髄膜腫と同様の手法によりターゲット遺伝子発現を調整して神経鞘腫の分子機序解明を進める。
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