研究課題/領域番号 |
15K10354
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中冨 浩文 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (10420209)
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研究分担者 |
齊藤 延人 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (60262002)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経機能モニタリング / 蝸牛神経 / 顔面神経 / 小脳橋角部病変 |
研究実績の概要 |
小脳橋角部の疾患は、聴神経鞘腫、経静脈孔神経鞘腫、三叉神経鞘腫、小脳橋角部髄膜腫、椎骨動脈瘤を代表とし、様々な脳神経損傷を来す。特に蝸牛神経は脆弱であり、外科治療後の聴力 低下は依然課題である。最も頻度の高い聴神経鞘腫は、自然歴では、緩徐進行性に増大し、ほぼ 全例で聴力低下を来たす。外科治療後の聴力の温存率はおおむね 50-60%前後であり、顔面神経麻 痺も手術直後には 20%前後で出現しうる。すなわち外科治療における神経機能温存率向上が大きな課題である。 こうした背景のもと、申請者らは、聴覚並びに顔面神経機能を“見える化”する新たな術中持続神経核、神経根モニタリング電極、装置の開発、臨床応用を行ってきた。 聴覚では、脳幹の神経核より直接、蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)を安全に測定する方 法を見いだした。顔面神経についても、神経根に直接に持続刺激電極を留置し、顔面神経根誘発 筋活動電位(FREMAP)を安定記録することに成功した。 この2つの新たな術中持続神経核、神経根モニタリングは、国内、欧州連合、米国で計6つの特許を取得した。申請者はこれまで170 症例以上において使用し、手術中の測定可能なすべての電気生理学的データを蓄積してきた。この電気生理学的データに加え、患者の臨床所見、神経所見、腫瘍の画像所見の全てを包括するデータベースを作成してきた。このデータベースの多変量解析から、術前後の同一グレードの神経機能温存に有意に相関する因 子は、AEDNAP反応温存率ならびにFREMAP反応温存率であることが明らかとなった。さらに同一グレードの神経機能温存の為の閾値は、聴覚において、AEDNAP 反応の 36.5%が、 顔面神経において FREMAP 反応の 61.5% 以上を維持する必要がある事が明らか となった(Nakatomi et al. JNS 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2006-2014年に手術を施行した聴神経腫瘍は連続144例である。全例で、蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)と顔面神経根誘発筋電図(FREMAP)を持続モニタリングした。術前後で同クラスの聴力温存、同グレードの顔面機能温存と有意に相関する因子は、ロジスティック解析ではそれぞれAEDNAP, FRMAP温存率最終値であった。2)ROC解析では、AEDNAP温存率最終値が35.5%以上、FREMAP温存率最終値58.5%以上で、同クラス、同グレード機能温存率が有意に優れていた。症例の蓄積とともに神経機能温存の為の閾値の再現性を確認できた。 2010-2015年に手術を施行した小脳橋角部髄膜腫は32例である。22例で、蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)または顔面神経根誘発筋電図(FREMAP)を持続モニタリングした。AEDNAP温存率最終値が35.5%以上、FREMAP温存率最終値58.5%以上で、同クラス、同グレード機能温存率が有意に優れていた。小脳橋角部髄膜腫での有効性を確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度 1. 蝸牛神経背側核活動電位モニタリング(AEDNAP)と顔面神経根刺激誘発筋電図モニタリング(FREMAP)ならびに持続神経モニタリングを用いた小脳橋角部髄膜腫の手術で用いて、有効性を評価する。2. 小脳橋角部髄膜腫手術に関連した、臨床、神経、電気生理、画像の包括的データベースの臨床 統計解析を行う。 平成 29 年度以降 1.蝸牛神経背側核活動電位モニタリング(DNAP)と顔面神経根刺激誘発筋電図モニタリング (FREMG)ならびに持続神経モニタリングを用いた椎骨脳底動脈瘤と小脳橋角部脳動静脈奇形の手 術で用いて、有効性を評価する。2. 椎骨脳底動脈瘤と小脳橋角部脳動静脈奇形手術に関連した、臨床、神経、電気生理、画像の包 括的データベースの臨床統計解析を行う。
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