研究課題
小脳橋角部の疾患は,聴神経鞘腫,頸静脈孔神経鞘腫,三叉神経鞘腫,小脳橋角部髄膜腫,椎骨動脈流を代表として,様々な脳神経損傷を来す.特に蝸牛神経は脆弱であり,外科的治療後の聴力の温存率は概ね50-60%前後であり,顔面神経麻痺も手術直後には,20%前後で出現しうる.すなわち外科的治療における神経機能温存率向上が大きな課題である.こうした背景のもと,申請者らは,聴覚並びに顔面神経機能を“見える化”する新たな術中持続神経核,神経根モニタリング電極,装置の開発,臨床応用を行ってきた.聴覚では,脳幹の神経核より直接,蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)を安全に記録する方法を見出した.顔面神経についても,神経根に直接,持続刺激電極を留置し,顔面神経根誘発筋活動電位(FREMAP)を安定記録することし成功した.この2つの新たな術中持続神経核,神経根モニタリングは,国内,欧州連合,米国で計6つの特許を取得した.申請者はこれまで200症例以上において使用し,手術中の測定可能なすべての電気生理学的データを蓄積してきた.この電気生理学的データに加え,患者の臨床所見,神経所見,腫瘍の画像所見の全てを包括するデータベースを作成してきた.このデータベースの多変量解析から,術前後の同一グレードの神経機能温存に有意に相関する因子は,AEDNAP反応温存率ならびにFREMAP反応温存率であることが明らかとなった.さらに同一グレードの神経機能温存の為の閾値は,89症例の研究では,聴覚においてAEDNAP反応の36.5%が,顔面神経においてFRAEMAP反応の61.5%以上を維持する必要があることが明となった(Nakatomi et al.2014).
2: おおむね順調に進展している
(理由)2006-2016年に施行した聴神経腫瘍は連続186例である.全例で,蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)と顔面神経根誘発筋電図(FREMAP)を持続モニタリングした.術前後で同クラスの聴力温存,同グレードの顔面機能温存と有意に相関する因子は,ロジスティック解析ではそれぞれAEDNAP,FREMAP温存率が最終地であった.ROC解析では,AEDNAP温存率最終値が35.5%以上,FREMAP温存率最終値が58.5%以上で,同クラス,同グレードの機能温存率が有意に優れていた.症例の蓄積とともに神経機能温存の為の閾値の再現性を確認できた.2010-2016年に手術を施行した小脳橋角部髄膜腫は46例である.34例で,蝸牛神経背側核活動電位(AEDNAP)または顔面神経根誘発筋電図(FREMAP)を持続モニタリングした.AENAP温存率最終値が35.5%以上,FREMAP温存率最終値58.5%以上で,同クラス,同グレード機能温存率が有意に優れていた.小脳橋角部髄膜腫での有効性を確認できた.また経頭蓋運動誘発電位に関して,47.8%以上の温存最終値で有意に機能温存されていることもわかった.
1. 蝸牛神経背側核活動電位モニタリング(AEDNAP)と顔面神経根刺激誘発筋電図モニタリング(FREMAP)ならびに持続神経モニタリングを用いた椎骨脳底動脈瘤と小脳橋角部脳動脈奇形の手術で用いて,有効性を評価する.2.椎骨脳底動脈瘤と小脳橋角部脳動静脈奇形手術に関連した臨床,神経,電気生理,画像の包括的データベースの臨床統計解析を行う.
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 7件、 招待講演 9件) 図書 (5件)
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