研究課題/領域番号 |
15K10356
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊東 清志 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 講師 (00362111)
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研究分担者 |
川原 一郎 松本歯科大学, 歯学部, 教授 (20319114)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリエーテルエーテルケトン / 骨形成 / フッ素化 |
研究実績の概要 |
多くの脊椎手術で行われる脊椎固定では脊椎椎体スペーサーが用いられる。本研究責任者は、頚椎固定術に一般的に使用されているチタン製スペーサーは、骨より剛性が高いために母床の脊椎椎体が圧潰することがあるため複数回手術が必要になったり、機能障害が発生したりする問題が生じる一方、近年頻用されるようになった低剛性のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製スペーサーは、剛性が骨に近いため、椎体が圧潰することが少ないが、骨形成性が低いため、骨癒合しにくく、固定性が悪いという大きな欠点があるという知見を得、両者の問題を解決できるスペーサー開発の必要性を痛感していた。本課題は、最終的には、従来のチタン製及びPEEK製スペーサーの問題点を解消できる脊椎椎体スペーサーを開発することを目的とする。 1年目である本年は、様々な条件下で、PEEKの表面の組成を変化させ骨の材料であるカルシウムを表面に集めるべく、条件を変化させフッ素化処理を施行した。処理を行う際のフッ素ガス分圧を変えたり、処理時間を変化させたりすることで、まずPEEK表面の組成の改変が可能であるか検討した。最終的には、骨形成を主眼にいれているため、骨形成能向上に有利なPEEK表面の親水化、電荷保持化のための条件をin vitroの条件下で探ることになる。 人工組織液Hanks液(カルシウムイオンを含む)に、各種の表面加工を行ったPEEKを浸漬し、経時的(再考100日間)にリン酸カルシウムの析出をX線回折で確認した。続いてSEMにてPEEK表面のリン酸カルシウムの析出を観察した。初期条件として、PEEK表面を①F2/O2処理によりカルボキシル基を形成させたもの ②NaOH溶液に浸漬し表面をカルボン酸ナトリウムへと修飾させたPEEK ③対照として表面加工させていないPEEK 以上の3種類のPEEK表面を用いてin vitroでの実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の①②と対照群である③を比較して、PEEKを浸漬した溶液(Hanks液)内のカルシウム濃度の変化を計測し、その減少量がPEEK表面に沈着していると仮定した。計測にはカルシウムE-テストワコーキットを用いて吸光度測定から算出した。また、Hanks液浸漬100日目に、①F2/O2処理によりPEEKにカルボキシル基を形成させたもの ②NaOH溶液に浸漬し表面をカルボン酸ナトリウムへと修飾させたPEEK ③対照として表面加工させていないPEEKを、それぞれ浸漬液より取り出し、速やかに水分を除去後、乾燥させSEMにて観察した。その結果、Hanks液内のカルシウム濃度は、実験開始後10日を経過して①F2/O2処理によりPEEKにカルボキシル基を形成させたもの < ②NaOH溶液に浸漬し表面をカルボン酸ナトリウムへと修飾させたPEEK < ③対照として表面加工させていないPEEK という結果となり、表面修飾を行った①で浸漬していた液内のカルシウム濃度が低いことがわかった。 続いてSEMにてPEEK表面のリン酸カルシウムの析出をX線回折にて観察した。①>②>③となり、これはHanks液内のカルシウムがPEEK表面に沈着したことを表すことになった。 しかし、これらはある条件下をin vitroで調査研究したことにとまどり①のなかでも、カルボキシル基の割合(濃度)を探求した者ではない。今後の課題と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
詳細は、ここでは記載できないが、今回使用した方法以外の、他の方法を用いて、in vitroでの条件を変化させPEEK表面の組成を変えることが可能であると、この1年目の実験で確信した。今後はこの表面加工を繰り返し、さらに多くのカルシウムを沈着させる表面加工の方法(さまざまな条件、濃度、分圧をかえることで)を模索する予定である。 さらに2年目の後半では、この方法で、もっともカルシウムイオンを集積したインプラントを、in vivoに応用する予定である。まず表面加工したPEEKを埋植したウサギを、4、8、12週で犠牲死させる。その際に動物実験用マイクロCT を用いてインプラント周囲の骨形成を観察する。骨新生の様子が確認できると思われる。また放射線学的方法に加え、骨新生の変化を組織学的に観察するため、それぞれの家兎でトリジンブルー染色およびアザン染色を行う。それぞれの染色により新生骨の分布が分かる。新生骨の局在や骨量が、経時的にどのように異なるかを検討することでインプラント周囲の骨形成の過程も分かるものと思われる。 最後に、PEEKインプラントの引き抜き試験による骨形成の力学的評価を行う予定である。大腿骨遠位端にin vitroで良好のカルシウム沈着能をもったPEEKを埋食し、12週の時点で、家兎の大腿骨を切断整形し、埋植したインプラントを露出させる。その後レジンで周囲を固定し、ねじり試験装置で周囲の骨との親和性を計測する。最終的な周囲の骨との結合力、骨形成力の指標となると思われる。状況によっては、in vivoでの結果に基づきin vitroへPEEKの加工方法について検討を加えることも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度in vitroで使用したPEEKなどの、物品購入費にかかる費用が実験前に当初計画で見込んだよりも少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、平成28年度請求額とあわせてPEEK表面の加工に必要な消耗品費として使用する。
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