研究課題
限局性皮質異形成(Focal cortical dysplasia, FCD)IIb患者9名のエクソーム解析を施行し、その結果MTOR遺伝子の体細胞変異を同定した。MTOR遺伝子がコードするmTOR蛋白は、脳皮質の発生において重要な役割を果たすPI3K-AKT3-mTOR経路の制御因子として知られており、これまでの研究により、FCDIIb組織においてはmTOR経路が活性化されることが報告されている。そこで、Targeted amplicon sequencing法にてMTOR遺伝子の全コーディング領域のdeep sequencingを行ったところ、FCDIIb患者13例中6例においてMTOR遺伝子の体細胞変異を同定した。次に、MTOR変異を有する患者の脳組織検体におけるmTOR経路の活性化を評価したところ、MTOR変異陽性のFCDIIb症例においては、他の疾患の脳組織に比較してmTOR経路の著しい活性化が認められた。また、同定された各変異がmTOR経路に及ぼす影響をヒト培養細胞株を用いて検討したところ、MTOR変異体を発現するプラスミドをトランスフェクションした細胞株はMTOR正常体を発現するプラスミドをトランスフェクションした細胞株に比べて、mTOR経路の活性が著明に上昇していた。このことから、これらの変異はすべてPI3K-AKT3-mTOR経路を賦活化する活性型変異であることが示唆された。mTOR蛋白は免疫抑制剤の一つであるラパマイシン(Rapamycin)の標的蛋白であり、ラパマイシンおよびそのラパログをFCDに起因する難治性てんかんの治療薬として応用できる可能性が期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
FCDの新規原因遺伝子MTORの同定に成功しており、さらに変異が疾患病態形成に寄与する機序の一部を解明することに成功している。また、ラパマイシンの投与がMTOR遺伝子変異によるmTOR経路の活性化を抑制することが示されていることから、現在難治性てんかんを示すFCD患者に対するラパマイシン投与の治験が進められている。以上の事から想定以上の進捗が得られていと考えられる。
現在までに累計30例の皮質形成異常症患者の脳組織および血液検体の集積が修了しており、引き続き新規原因遺伝子の検索を行っていく。また、すでに同定された遺伝子に関しては、遺伝子変異が疾患病態に与える影響を検討する。
平成28年度に使用予定である研究資料の費用として27年度分の研究費の一部を繰り越したため。
平成28年度に年間契約にて使用するHGMDデータベースの契約料(オンラインネームドユーザー使用料190,000円およびダウンロード研究用ラボライセンス料570,000円)の支払いや海外出張費等に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Ann Neurol
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