固形癌を有する患者の血清中に腫瘍由来のcirculating cell free (ccf) DNA が検出されることが報告されている。このccf DNAは腫瘍の壊死やアポトーシスに陥った組織から溶出した腫瘍DNAが体循環内へと入るものとされている。グリオーマの場合は、血清中で検出可能な腫瘍由来DNAは質、量とも解析に不適であるものの、脳脊髄液中に存在する腫瘍由来ccf DNAであれば、量的にも問題なく、かつ遺伝子プロモーターのメチル化や250塩基ほどの長鎖のPCR増幅も可能であるとされている。そこで、我々は、手術が困難とされるグリオーマや術前に脳腫瘍かどうかの判定に難渋する症例などに、脳脊髄液中の腫瘍由来のccf DNAにおける遺伝子異常が、実際の腫瘍由来のDNAを用いた解析と一致するかどうか、また、分子診断マーカー、治療効果予測因子、臨床的予後因子として有用であるかどうかを検討することを目的として本研究を計画した。1mlの脳脊髄液から10ng以上のccfDNAが得られることが判明し、real-time PCR/高解像能融解曲線分析法での解析が可能であった。グリオーマ患者7例中3例においてIDH1遺伝子変異がみられた。髄液由来ccfDNAと外科的に摘出された腫瘍から抽出したDNAにおけるIDH1遺伝子解析結果が全例で一致した。MGMT遺伝子プロモーターメチル化の状態を解析した2例でもメチル化につき定量的に解析が可能であった。以上から、髄液中のccfDNAを用いた遺伝子解析により、直接腫瘍組織を得ることなく、低侵襲でグリオーマ患者のIDH1遺伝子の評価を行えることが示された。さらに、MGMT遺伝子プロモーターメチル化の評価などIDH1遺伝子以外の分子マーカーの解析も可能と考えられた。
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