本研究は顔面けいれん患者を対象とし、その術前後の神経機能を検討して脳神経の機能障害の経過およびその原因を解明することを目的としている。顔面けいれんの術後には過剰興奮の改善と共に、術中操作による神経機能障害が一過性に出現し、改善してゆく。本研究は、顔面神経と聴神経を脳神経の運動神経および感覚神経のモデルとし、手術操作、高血圧や糖尿病などの基礎疾患、MRIによる神経の解剖学的特徴など、脳神経の機能に影響を与える因子を検討するものである。 本年は、64名の顔面けいれんに対する神経血管減圧手術があり、その全例で術中に聴性脳幹誘発反応を記録した。また、顔面神経の異常興奮の指標である、顔面神経核からの異常電位および顔面表情筋からの異常活動の測定を行った。また患者の基礎疾患(高血圧や糖尿病など)を検討し、頭部MRIを撮像し、拡散協調画像により顔面神経のtensor imageの描出や顔面神経と圧迫血管の解剖学的関係の三次元画像により立体的に描出する試みを続けた。 昨年までの結果より、顔面神経核の異常興奮を加算平均で評価するのは困難であることが判明しており、測定データを陽性化(rectify)し加重平均することとした。これにより、顔面表情筋と同様に顔面神経核からの異常信号を測定であったが、全例で測定できるわけではなく、接地電極などの工夫など今後も検討を続ける必要があった。 顔面神経核の異常興奮の程度と術後の神経障害の関連は明らかでない。椎骨動脈により、大きく脳幹部が圧迫されている患者では術後に一過性の顔面神経麻痺が生じやすい傾向があったが、これは椎骨動脈の異動のために酸性の止血材料(サージセル)を使用したためと考えられた。術後の顔面神経麻痺の出現には酸性止血材料が関与していると考えられ、過剰な使用は術後の神経障害を誘発しうることが明らかとなった。
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