研究課題/領域番号 |
15K10373
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
深谷 親 日本大学, 医学部, 准教授 (50287637)
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研究分担者 |
山本 隆充 日本大学, 医学部, 客員教授 (50158284)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / 脳深部刺激療法 / 視床下核 / 長期予後 / 年齢 / 認知機能 / 日常生活動作 |
研究実績の概要 |
前年度までの研究では、当院にてSTN-DBSを施行し5年以上の長期にわたりfollow-upされている66症例を選び、術後5年目のADLが終日自立していた群と自立していない群に分け、術前状態の相違点を検討したところ、有意差の認められたものは、発症年齢(p<0.05)と手術時年齢(p<0.01)であった。罹病期間には有意差は検出されなかった。MMSEにも有意差が認められた(p<0.01)。 さらに、今年度はUPDRS partⅢのitemを症状別に集計し、自立郡と非自立群の相違を検討した。代表的なパーキンソン病症状をitem別に、Tremor (items 20 and 21) Rigidity (item 22)、 Bradykinesia (items 23, 24, 25, 26 and 31)、 Axial symptoms (items 18, 27, 28, 29 and 30)に分け、自立群と非自立群の違いを検討した。その結果、axial symptomsのoff-periodのみに有意な差が認められた(p<0.002)。自立群においては、術前のaxial symptomsに関するitemの合計スコアがoff-periodにおいて有意に低かった。 上記のごとく単変量解析にて有意差が認められた全ての要因についてmultiple logistic regression analysisによる多変量解析も行った。その結果、手術時の年齢 (odds ratio 1.247, 95%CI: 1.061~1.467)、術前のMMSEスコア (odds ratio 0.754, 95%CI: 0.592~0.96)、術前S&Eのoff-periodのスコア (odds ratio 1.247, 95%CI: 1.061~1.467)が有意な独立変数であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
順調に進行し当初予定していた作業はほぼ終了している。対象症例66例を選抜し、欠損データについては外来での聴取を主に行い補填することもできた。単変量解析については、発症年齢、術前の罹病期間、手術時年齢、術前の内服状況、術前のUPDRS、HDS、MMSEに関して解析を行い、かなり信頼性の高い結果が得られている。単変量解析にて有意差の得られた要因に関しては多変量解析も行い意義のある結果が得られた。多変量解析を行う際には、UPDRS partⅢの症状別にitemを集計したデータも加えることができた。症状別itemとしては、items 20と21をTremor、item 22をRigidity、items 23, 24, 25, 26, 31をBradykinesia、items 18, 27, 28, 29, 30をAxial symptomsと分類して集計している。こうした検討を加えることにより、外来診療での簡易的な神経学的検査によっても脳深部刺激療法の長期的効果の期待度を類推できるようになると考えられる。さらに男女差によるSTN-DBSの効果の違いに関する検討を行うための基礎データを集積中である。
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今後の研究の推進方策 |
長期予後の予測因子については、多変量解析を含めた統計解析を行うことができ、予定より進んだ状況であるため、さらに男女差がSTN-DBS後の長期予後に及ぼす影響についても検討を加えたいと考えている。 世界的にみるとパーキンソン病(Parkinson’s disease: PD)は、男性の方が、発生率が高いことが知られている。その理由として、エストロゲンの神経保護作用の関与などが推定されている。しかし、アジアではその男女比は逆転し、とくに日本においては年齢分布の影響を排した緻密な調査研究においても女性の方が、発生率が高いという結果が出ている。こうした男女差の地域特性が、視床下核脳深部刺激療法(Subthalamic nucleus-deep brain stimulation: STN-DBS)の効果に反映するのかは、明らかにされていない。 性差による効果の違いについては、術後当科外来にて刺激調整が行われ、5年以上のfollow-upがなされている症例を対象として検討を行う。評価は、STN-DBS施行直後(1ヶ月以内)と長期follow-up後(5年目)のUnified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)のスコアと改善率を用いて行う予定である。 欧米と日本では、パーキンソン病離間率の男女比は逆転していることが報告されているがその原因は定かではない。女性ホルモンの神経保護作用も近年推測されており、こうした状況がSTN-DBSの効果の性差に反映しているかは興味深いところである。
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次年度使用額が生じた理由 |
日内変動を記録するために患者さんにつけてもらう患者日誌は当初予定していたよりも少なくてすんだ。これは患者さんたちが自らコピーして使用してくれることが多かったためである。日常生活動作や神経学的所見を評価するためのバッテリーも一度に大量に作成したためやや安価に済んだ。さらに研究成果を発表するために国際学会への参加を予定していたが、開催地が予定していたよりも近くの国になったため計上していた旅費より少なくてすんだ。 また、研究成果はほぼまとまってきたため、来年度はこれらの成果を国内および国外での学会に参加し積極的に発表したいと考えている。このため旅費として使用する分が多くなると考える。もちろん従来どおりパーキンソン病症状の神経学的評価バッテリーや患者日誌の作成印刷代も必要となる。統計解析ソフトの追加購入あるいはアップデートの費用も必要となる可能性が高い。具体的には、旅費が50万円程度、物品費が25万円程度、そのほか通信費等が10万円程度かかる予定である。
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