研究課題/領域番号 |
15K10380
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
磯貝 恵理子 千葉県がんセンター(研究所), 実験動物研究室, 上席研究員 (40300917)
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研究分担者 |
若林 雄一 千葉県がんセンター(研究所), 実験動物研究室, 室長 (40303119)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経発生 / 水頭症 / モデル動物 |
研究実績の概要 |
中枢・末梢神経系の発生に重要な転写因子HES1の機能を修飾するLmo3とHen2を高発現させたトランスジェニック(Tg)マウスを作製し解析したところ、中枢神経系の発生異常と水頭症が引き起こされた。従って、本Tgマウスは水頭症モデルとして重要であり水頭症の発症機構の解明につながると考えられる。 水頭症の発生頻度は、Lmo3とHen2の両Tgマウスのhemizygoteでは野生型マウスに比較して有意に高く、両Tgマウスのhemizygoteを掛け合わせたダブルTgマウスでは100%が水頭症を発症した。発症した3週令マウスの脳の形態を検討したところ、大脳皮質の厚みが減少し脳室が拡大していた。両Tgマウスのhemizygoteでは、水頭症の主要な原因である中脳水道の狭窄が観察されたが、ダブルTgマウスでは観察されなかった。従って本Tgマウスの水頭症の原因は中脳水道の狭窄だけではなく、大脳の発生異常の可能性が示唆された。ダブルTgマウスの胎生18.5日では、大脳皮質および神経幹細胞が存在する脳室周辺の領域の厚みが減少していた。この大脳の異常は胎生13.5日では観察されなかった。胎生13.5日は幹細胞の増殖と神経発生が進行している時期なので、本Tgマウスでは大脳皮質の発生異常が生じ、その後水頭症が起っていることが考えられた。脳室周辺領域の厚みの減少は、神経幹細胞の分裂様式が対称分裂から非対称分裂に変化することによっても起るので、胎生13.5日の大脳皮質を神経細胞特異的な抗体で免疫染色したところ、野生型と比較してTgマウスで異常は観察されなかた。従って本Tgマウスでは、Lmo3とHen2が協調的に作用して神経前駆細胞の発生に干渉し、大脳における神経発生の異常を引き起こしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳の発生異常については、Tgマウス胎仔脳の免疫染色等による解析により、順調に進展している。次年度に計画していた子宮内エレクトロポレーション法による、胎仔脳室への遺伝子導入の技術の習得はすでに進行しており、結果も出始めている。さらに本研究室が所有している、他の水頭症発症マウスの子宮内エレクトロポレーション法による解析でも同様の発症機構が示唆され、水頭症と神経発生異常との関連性の解明につながる可能性がある。一方で本Tgマウスでは、抹消神経系の異常の発症の前に大脳の異常が起り致死的であるため抹消神経系の解析は進行しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本Tgマウスでは、抹消神経系の異常の発症の前に大脳の異常が起り致死的であるため、抹消神経系の解析は進行しなかった。抹消神経系への効果は、胎仔抹消神経節への子宮内エレクトロポレーション法による遺伝子導入の可能性も検討する。胎生期終脳等のRNAを材料に、DNAチップを用いて遺伝子発現プロファイルの比較を行い、発現レベルが変化した遺伝子群を抽出する計画は、多くの遺伝子が候補としてあがってくることが予想される。そこで、既に存在している遺伝子発現データーベース等の検索や論文検索を行うことで下流遺伝子の探索を実施し、機能制御を受けると予想された候補遺伝子に関して、胎仔の脳室へのエレクトロポレーション法により、Tgマウスで観察された脳の形質との関連性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
脳の異常が致死的であり、マウス個体における抹消神経系の解析が進まなかった。細胞培養より個体の解析に重点をおいた。
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次年度使用額の使用計画 |
候補遺伝子、発現ベクター、新たな遺伝子改変マウス、免疫染色用抗体の購入に使用する。
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