研究課題
神経系の発生に重要な転写因子HES1の機能を修飾するLmo3とHen2のトランスジェニック(Tg)マウスは水頭症モデルとして重要であり、その解析は水頭症の発症機構の解明につながると考えられる。100%が水頭症を発症するダブルTgマウスでは、大脳皮質と神経幹細胞が存在する脳室周辺領域の厚みが減少していた。神経発生が進行する胎生13.5日で、大脳皮質を神経細胞特異的な抗体で染色したところTgマウスで異常は観察されなかった。そこで、神経前駆細胞の非対称分裂で生じる神経細胞の前段階のintermediate progenitor cells (IPC) について検討した。胎生12.5日と13.5日の大脳皮質ではダブルTgマウスでIPCの増加が観察された。さらに胎生13.5日の胎仔脳室へのエレクトロポレーション法によりLmo3とHen2を幹細胞で高発現させ、14.5日の大脳皮質のIPCについて検討したところ増加が観察された。従ってLmo3とHen2が協調的に作用して神経前駆細胞から過剰なIPCを誘導し神経幹細胞の枯渇と大脳における神経発生の異常を引き起こすことが示唆された。本年度は更にLmo3 Hen2単独の効果を検討する為に各遺伝子を脳の幹細胞で高発現させたところ、IPCが減少し神経細胞が増加した。一方、両遺伝子を高発現させた胎仔脳ではIPCが増加していたが神経細胞の増加は観察されなかった。従って、LMO3 Hen2各遺伝子単独の高発現は神経細胞への未成熟な分化の亢進によるIPCの減少と幹細胞の枯渇を、両遺伝子の高発現は過剰なIPCの誘導による幹細胞の枯渇を起こすことを示唆した。いずれの場合も大脳皮質において異常な神経発生とひいては水頭症の発生を誘導するものと考えられ、本研究の結果から水頭症の発生機構の解明につながることが期待される。
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