肩腱板断裂において,腱板構成筋の萎縮は術後成績のみならず術式の選択そのものにも影響を与える因子である.本研究では坐骨神経損傷モデルラットにおいて後肢の筋萎縮予防効果をもたらしたことが報告されたウルソル酸を用い,腱板断裂モデルラットにおけるウルソル酸の腱板構成筋萎縮予防効果を調査するを当初の目的としていた. 初年度から2年目にかけ,全身麻酔下に棘上筋・棘下筋件を切離して作成した腱板大断裂モデルラットに対して術後8週から16週にかけてウルソル酸を投与し,非投与群との筋重量の比較を行ったが,全ての腱板構成筋群で有意差は見られず,腱板大断裂モデルラットにおけるウルソル酸の効果を実証することが出来なかった.この結果とウルソル酸の試薬が非常に高額であったことから,再実験を断念し,次の計画として2年目後半から腱板大断裂モデルラットにおける腱板構成筋の変性を経時的に調査する実験を開始した.腱板断裂処置後,1週,2週,4週,8週,16週でラットを屠殺して腱板構成筋の重量を計測しこれを採取した.この結果,棘上筋では術後16週で術後1週に対し有意な筋重量の低下を示すのに対し,棘下筋では術後4週の時点で術後1週に対し有意な筋重量の低下を示しており,腱板大断裂では棘下筋でより早期から筋萎縮が進行する可能性が示された.3年目終了時点では全てのサンプルを採取しており,現在も筋肥大・萎縮,脂肪変性,繊維化関連遺伝子・タンパクの発現を調査するための実験を継続している.
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