研究課題/領域番号 |
15K10389
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 健一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 研究員 (90583162)
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研究分担者 |
鄭 雄一 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30345053)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒスタミンH2受容体拮抗薬 / 後縦靱帯骨化症 / tip toe mouse / 石灰沈着性腱炎 / 異所性骨化 |
研究実績の概要 |
後縦靱帯骨化症(OPLL)は、脊椎椎体の後縁を連結し脊柱のほぼ全長を縦走している後縦靱帯が骨化することにより、脊柱管狭窄をきたし脊髄または神経根の圧迫・障害により神経症状をおこす疾患である。本症の発症メカニズムについては未だ明らかにされておらず、治療法としては侵襲的な外科的治療が主である。本研究は、申請者が最近見出したヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)の石灰化抑制作用をさらに発展させ、H2ブロッカーがOPLLの予防・治療に対し有効であるかを検討するものである。H2ブロッカーのもつ石灰化抑制効果を分子生物学的に検証し、異所性石灰化・靱帯骨化抑制の作用点をも含めて解明する。また、生体における他の石灰沈着症・靱帯骨化症のメカニズムの解明も視野に入れている。 OPLLを含め、異所性骨化症は整形外科外来において日常少なからず経験する疾病である。本研究は、これらに対する治療のうち、特に石灰化を抑制し、かつ吸収させるという効果が臨床上経験されているH2ブロッカーについての基礎的研究である。これまでの報告が臨床上の経験的報告が主であったのに対し、本研究ではin vitro実験として、石灰化させた各種細胞を用い、in vivo実験としてTTW/Jic-ICR mouseを用いることにより、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の石灰化抑制の効果を分子生物学的に解明しようとしている。 本研究のメカニズムを分子生物学的に解明することは、臨床医学で効果が認められている治療法に基礎医学・生物学的エビデンスを添えることとなる。つまり本研究が達成されれば、本治療法がエビデンスを有するものとして受け入れられ、H2ブロッカーの薬効として新たにOPLLに対する抑制効果の追加が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初平成27年度内行うと予定していた実験計画は以下のとおりであるがそれらが全て計画通りに進展しているため区分(2)を選択した。 1. 各種細胞(骨芽系細胞MC3T3-E1、腱細胞TTD6、軟骨系細胞ATD6など)におけるヒスタミンH2受容体の発現解析と石灰化誘導培養系における、H2ブロッカーの石灰化抑制効果の解析 背景と目的:「靱帯骨化に対するH2ブロッカーの効果」と「ヒスタミンの石灰化における役割」を明らかにするため、培養細胞においてH2受容体の発現解析を行い、石灰化に対するH2ブロッカーとヒスタミンの影響を検討する。対象と方法:1.骨芽細胞系細胞株MC3T3-E1を24-wellに5000 cells/wellで播種し、培養液は石灰化誘導培地と,石灰化誘導培地にbone morphorogic protein 2(BMP2)を2 ng/ml混合したものを用意する。ヒスタミンH2受容体拮抗薬としてFamotidine, Cimetidine, Ranitidine, Lafutidine, Roxatidine, Nizatidine存在下で3週間培養しVon Kossa染色と ALP染色を行う。また、RT-PCRでH2受容体及び骨分化・軟骨肥大化マーカーであるOsteocalcin(OC)、Collagen type 1, 10(Col1, 10)の発現を調べる。 2. 腱由来細胞株TTD6についても同様に 石灰化誘導培地, 石灰化誘導培地+BMP2にFamotidine を添加し、Von Kossa染色・ALP染色・遺伝子発現解析を行う。 3. マウス奇形種由来細胞株ATDC5については、Famotidine存在下で、20日間 Pi添加DMEMにて培養して石灰化を誘導する。上記二つの細胞株と同様に、Von Kossa染色・ALP染色・遺伝子発現解析を行う。ATDC5細胞を用いた予備検討から、ファモチジンが用量依存的にOCとCol10の発現を抑制する結果が得られている。ヒスタミンによる石灰化誘導効果の解析についてもH2ブロッカーの石灰化抑制の評価と同様にMC3T3-E1、TTD6、ATDC5を用い評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
H27年度進捗した実験結果を基に以下の実験計画を行い進展させる予定である。 1.OPLLのモデルマウスであるtip toe mouse(TTW/Jic-ICR(ttw/ttw)mouse:TTWマウス)を用いた、H2ブロッカーによる靱帯骨化抑制についての解析 背景と目的:OPLLに対するH2ブロッカーの靱帯骨化抑制のメカニズムを明らかにするため、OPLLを発症するTTW/Jic-ICR(ttw/ttw)mouse(Nat Genet. 1998 Jul;19(3):271-3)にヒスタミンH2受容体拮抗薬を投与し、後縦靱帯骨化が抑制されるかを調査する。対象と方法:生後4週齢のTTW/Jic-ICR(ttw/ttw)mouse 24匹に、Famotidineを濃度4.57 mg/L(*)で飲水に混和し、投与後4週(8週齢), 8(12), 11(15), 14(18), 17(21)で採材しμCTで後縦靱帯骨化の増減を評価する。また、組織切片についても評価する。((*)水分摂取量約3.5 mL/日・匹(20 g) famotidineのヒト最大投与量40mg/day=16.0μg/20 gから計算)。すでに予備実験を開始しており、Famotidine投与群で異所性骨化を抑制する傾向を認めている。 2. ヒスタミンH2受容体ノックアウトマウスとTTW マウスを交配により生まれる複合変異マウスにおけるOPLLの病態についての解析 背景と目的:ヒスタミンの後縦靭帯骨化における役割を遺伝学的に証明するため、ヒスタミンH2受容体ノックアウトマウスとTTW マウスの交配により生まれる複合変異マウスにおける後縦靱帯骨化の程度について解析する。対象と方法:Histamine H2R knockout mouseとTTW mouseを交配し、1と同様にμCTで後縦靱帯骨化の増減を評価し、組織切片についても評価する。 3. H2ブロッカーによる石灰化抑制の作用点の解明 上記1-3の実験結果に基づき、OPLLに対するH2受容体拮抗薬の予防効果・治療効果を検討し、その作用点の解明とヒスタミンの石灰化に対する関与についての解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の計画・方法は大きく1)in vitroと2)in vivoに分けて進行していく予定であるが、in vitroでは各種細胞での石灰化に対する検討が必要不可欠であり、そのために段階的に各種細胞・試薬・消耗品が必要であったが当初の予想より試薬や各種細胞を安価に入手でき実験進捗もスムーズに進展したため当該助成金が生じたため次年度以降の使用予定とした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降において、主にin vivoで靱帯骨化を起こす実験動物として、TTW/Jic-ICR(ttw/ttw)mouseを骨化抑制評価のために使用し、またHistamine knockout mouseとTTW mouseを交配しOPLLの程度を評価する。これらの動物は本研究において重要な動物であると考えている。しかし、これらの動物は繁殖が非常に困難な系統のため、実験動物の購入がその都度必要となり、これらを系統維持するための消耗品と石灰化を評価するための各種実験器具も必要となる。以上の実験を検討・考察し、国内では日本骨代謝学会、日本軟骨代謝学会、日本整形外科学会の3学会、国外の学会ではAmerican Society for Bone and Mineral Research, Osteoarthritis Research Society Internationalの2学会の学術集会での発表を、平成26年度に予定している。これらの報告・論文投稿のため、設備・備品・旅費が必要と考えられる。
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