研究課題/領域番号 |
15K10403
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
彌山 峰史 滋賀医科大学, 医学部, 客員助教 (60362042)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 後縦靭帯骨化 / 黄色靭帯骨化 / 内軟骨性骨化 / マイクロRNA / サイトカイン |
研究実績の概要 |
脊柱靭帯骨化症(後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症)は脊柱管内の靭帯骨化の増大によって進行性かつ重篤な脊髄症状をきたしうる疾患である。本症に対する新しい治療法を開発するにあたり、靭帯組織が骨組織へと変化する過程についての解析は非常に重要と考えられる。 脊柱靭帯骨化の病態には、加齢による退行性変化、代謝内分泌異常、生活環境素因など種々の因子の関与が報告されてきた。特に遺伝的背景についてはコラーゲン遺伝子の発現異常が報告されて以降、ゲノム・遺伝子解析が進められ、骨化関連遺伝子の存在が明らかとなってきている。しかし、骨化は全身性ではなく脊椎領域に限局すること、骨化形態、罹患高位数、骨化伸展様式には大きな個人差が存在すること、骨化巣の縮小や消退はほとんどみられないことなど、重要な疑問点は未だ存在している。 病理学的にみると、本症の骨化様式は内軟骨性骨化であり、骨化巣の近傍には軟骨細胞の層状配列からなる骨化前線が存在する。これまでの研究(平成25-26年度(若手研究B))において、この骨化前線は骨化の形態に応じて細胞密度、細胞分化過程が異なっており、さらに軟骨細胞、骨芽細胞の分化・脱分化に関与するRunx2、Osterix、Wnt/beta-cateninといった転写因子、シグナル伝達の発現を観察することができた。 これらの結果より、本研究では脊柱靭帯骨化の骨化前線部における細胞分化を規定する因子について解析し、研究結果が新しい骨化抑制療法の開発に寄与することを目的としている。本研究課題の初年度では、脊柱靭帯骨化症から得られた培養靭帯細胞に対して、細胞分化の調整に関与すると考えられるmicro RNA、細胞内サイトカインについて網羅的解析を行い、さらにはそれらの発現量、局在について実験を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロRNA(miRNA)は細胞内に存在する20-25塩基の一本鎖RNA分子であり、mRNAに相互作用して遺伝子発現を抑制的に調節する役割を有している。脊柱靭帯骨化に由来する培養靭帯細胞では、対照群(骨化のない靭帯由来の培養細胞)と比較して177個の有効判定を満たしたプローブが抽出できた。177プローブの内訳として、up-regulationしているものが58個、down-regulationしているものが119個であり、これらの中から統計学的解析により関連性が高いと考えられる5個のプローブを抽出することが可能であった。有意性についての統計学的解析、さらには抽出したマイクロRNAが標的とする遺伝子の発現について、現在解析を進めている段階である。 サイトカインの解析はサスペンションアレイシステムを用いて行った。培養細胞の細胞膜を融解したのち、profiling panelとしてBio-Plex(BIO-RAD)を用いて合計27項目のサイトカイン、ケモカイン、成長因子の発現量について定量化した。その結果、靭帯骨化の培養細胞では2項目のサイトカイン、2項目の成長因子の発現に有意差を認めた。これらの因子について、靭帯組織の薄切標本に対して免疫染色を行い、組織上の発現局在を観察している。 以上の結果については、日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本リウマチ学会などにて学会発表を行い、結果についての考察、討論を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
培養靭帯細胞に対するマイクロRNA解析については、データ解析と標的遺伝子の発現についての実験をすすめる予定である。また、サイトカイン解析については症例数の追加によって、より相関性の高い因子を同定し、脊柱靭帯の骨化過程における役割について解析を行う計画である。 平成28年度の実験計画では培養靭帯細胞に対して特定の条件下(化学物質の添加、ストレスの添加など)に培養を行い、サイトカインおよびその下流のシグナル発現の変化を観察し、脊柱靭帯骨化に特異性の高い因子について検討をすすめる予定である。 今後、これらの結果についての十分な裏付けを行った後、学会発表、英文雑誌への投稿を計画している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究では脊柱靭帯由来の培養細胞に対して、細胞培養に関連する溶液、試薬、細胞保存環境の構築のために研究費を使用した。また、組織切片に対する免疫染色に関連した試薬の購入を行った。 本年度では培養細胞に対するPCRなどの解析実験を計画していたが、症例数が整わなかったため、本年度は培養細胞の準備のみとなった。したがって次年度使用額が生じたものと考えられる。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究結果により、脊柱靭帯骨化の病態に関連することが推測されるサイトカイン、成長因子、マイクロRNAの抽出を行うことができた。平成28年度では、これらの因子の発現、局在についての研究を進める計画であり、次年度使用額を併せて使用する予定である。
|