研究課題/領域番号 |
15K10406
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
前野 耕一郎 神戸大学, 医学研究科, 助教 (70403269)
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研究分担者 |
西田 康太郎 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (00379372)
由留部 崇 神戸大学, 医学部附属病院, 医員 (10514648)
角谷 賢一朗 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (10533739)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 椎間板 / mTOR / Raptor / Rictor / オートファジー / アポトーシス / セネッセンス / siRNA |
研究実績の概要 |
前年度まではヒト椎間板髄核不死化細胞株にmTOR・Raptor・Rictorに対するsiRNAを導入し、ウエスタンブロット(WB)法で細胞内恒常性維持機構である細胞自食作用(オートファジー)の活性に関係する各蛋白質の動向を検討した。その結果、Raptorの機能抑制がmTORC1を抑制することで、オートファジー活性化と細胞アポトーシス・老化・基質分解の抑制を導くことが示された。本年度は実際のヒト椎間板組織を用いて椎間板とオートファジーの関係を証明すべく以下の実験を行った。ヒト椎間板髄核・線維輪組織より蛋白を抽出し、オートファジー必須因子ATG5、オートファジーマーカーLC3-IIと基質p62/SQSTM1の発現をWBで検討するとともに、ヒト椎間板髄核細胞へATG5のsiRNAを導入し、細胞生存率をCCK-8法で検討した。またIL-1β刺激による細胞アポトーシス・セネッセンスの誘導についても検討した。その結果、ヒト椎間板髄核細胞における経時的なLC3-IIの増大とp62/SQSTM1の減少、オートファジーの亢進を認めた。またATG5のRNA干渉により細胞生存率は有意に低下した。さらにATG5抑制群はIL-1β刺激下でアポトーシス促進因子であるBax、cleaved caspase-9、cleaved PARP、セネッセンスマーカーp16/INK4Aの増大と、抗アポトーシス因子Bcl-2の減少を示し、細胞アポトーシスとセネッセンスがともに亢進することが示された。これにより、これまで不明であったヒト椎間板細胞におけるオートファジーの関与が明らかとなった。さらに実際に臨床で使用可能なmTOR阻害薬であるラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、クルクミンを使用してヒト椎間板髄核細胞への影響を検討したところ、いずれの薬剤でもオートファジーの亢進、細胞アポトーシスの抑制が確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度は以降は、計画ではラット尾椎の創外固定器型椎間板圧迫変性モデルにmTOR、Raptor・RictorのsiRNAの導入を行って形態学的・組織学的変化を評価するとともにとともに、摘出した尾椎椎間板髄核細胞から各種遺伝子の動向を評価することを予定していた。しかしながら、まずは不死化細胞株ではない、実際の椎間板細胞を用いたIn vitroでの研究成果を固めるために、実際のヒト椎間板髄核細胞にオートファジー必須因子ATG5のsiRNAを導入して細胞生存率を検討するとともに、ATG5のsiRNAを導入下でのIL-1β刺激による細胞アポトーシス・セネッセンスの誘導の有無について評価した。その結果、ヒト椎間板髄核細胞において明らかなオートファジーの亢進を認め、またATG5のsiRNA干渉による抑制で細胞アポトーシス・セネッセンスの亢進ならび細胞生存率が有意に低下したため、今まで明らかでなかった椎間板髄核細胞でのオートファジーの関与がIn vitroにおいて明らかとなった。これらの結果から、In vivoの実験へ進む前に、実際に臨床現場で使用可能なmTOR阻害薬であるラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、クルクミンといった薬剤を使用してIn vitroでのヒト椎間板髄核細胞への影響を検討した。このことは当初の研究計画予定になかったことであったが、いずれの薬剤でも椎間板髄核細胞においてオートファジーの亢進、細胞アポトーシスの抑制が確認できた。In vivoの実験へ進む前段階で、実際の薬剤を用いて前向きな研究結果が得られたが、研究計画からはIn vivoの実験に進めていないことからやや遅れているとの自己評価である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究計画書に記載の通り、これまでに我々のグループが作成に携わり、モデルとして確立しているラット尾椎の創外固定型椎間板圧迫モデルを使用してIn vivo実験を進めていく予定である。このモデルはSD(Sprague-Dawley)ラットの尾椎に創外固定器を装着させ、椎間板に一定の加圧を加えることのできるモデルである。研究計画書では超音波コントラスト法を用いてラット尾椎椎間板にATG-5、mTOR、mTOR結合蛋白質のRaptor・Rictorの各siRNAを導入すると記載しているが、導入効率を考えて、実際には椎間板内への直接穿刺導入を検討している。また導入物質についても、当初は上述の通り、各種遺伝子のsiRNAを導入する予定であったが、in vitroの研究結果でmTOR阻害薬であるラパマイシン、テムシロリムス、エベロリムス、クルクミンといった実際の臨床現場で使用可能な薬剤を投与することでオートファジーの亢進、細胞アポトーシスの抑制が確認できたため、これらの薬剤を直接穿刺で椎間板内に導入することを検討している。導入後は創外固定型椎間板圧迫モデルを使用して椎間板に圧迫を加え、コントロール群と比較して椎間板の形態学的・組織学的な評価を行うとともに、圧迫を加えた椎間板の髄核細胞を採取し、免疫染色やオートファジー・アポトーシスの関連蛋白質や酵素である、LC3-Ⅱ、p62/SQSTM1、aggrecan、MMP-3、TIMP-1、カスパーゼ3,8,9などの定量評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画では主に細胞培養に必要な試薬(DMEM、FBSなど)、抗体試薬、Western blotting試薬、RT-PCRキット購入費、サイトカインassay試薬に加え、実験動物(ラット)購入費などに予算を計上していた。次年度使用額は9,527円であるため、額面においてはおおむね予定通りの使用額であったと考えている。尚、今回の研究実績報告では実験動物(ラット)に関する内容は記載していない。実際にはラットの実験も平行して行っているが、学術発表に至っていないというのがその理由の一つである。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は細胞培養に必要な試薬(DMEM、FBSなど)、抗体試薬、Western-blotting試薬、RT-PCRキットなど、実験動物(ラット)購入費として予算計上を行っている。in vivoでの実験成果にもよるが、現状では研究計画書に記載通りに助成金を使用予定である。
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