研究実績の概要 |
本研究初年度は、ヒト椎間板髄核細胞株においてsiRNAを用いたRaptorの機能抑制を行うことでmTORC1の発現のみが選択的に抑制され、オートファジーの誘導および細胞アポトーシス・老化・基質分解が抑制されることを明らかにした。昨年度は実際のヒト椎間板細胞を用い、オートファジー必須因子であるATG5を抑制することで、IL-1β刺激下において細胞アポトーシスとセネッセンスがともに亢進することを明らかにした。最終年度である本年度は、これらの結果を踏まえ、実際に臨床で使用可能なmTORC1阻害薬であるラパマイシン(Rap)、テムシロリムス(Tem)、エベロリムス(Eve)、クルクミン(Cur)を使用してヒト椎間板髄核細胞への影響を詳細に検討した。腰椎変性疾患に対する後方侵入椎体間固定術で得られた椎間板髄核の初代培養細胞にRap,Tem,Eve,Curの4剤を加え、①CCK8による細胞生存率の評価、②Western Blotting(WB)によるmTOR経路で重要なmTOR,Akt,P70/S6Kの発現量とリン酸化を評価、③オートファジーの評価としてWBによるLC3およびp62/SQSTM1の発現量の評価、④さらにIL-1β刺激下での4剤投与において細胞アポトーシス(PARP、 Cleaved PARP、Cleaved caspase-9の発現量)、細胞老化(セネッセンス:p16/INK4Aの発現量)、細胞外基質分解(MMP2,3,9,13,TIMP-1,TIMP-2の発現量)を評価した。その結果、Rap,Tem,Eveの3剤の投与によりmTORシグナル経路の抑制ならびにオートファジーとAktの発現亢進を認め、ヒト椎間板髄核細胞での強力な保護作用が示された。特にTemは他の2剤に比べて親水性が高く、臨床上の投与方法に利点があるため椎間板変性治療薬として有用ではないかと考えられた。
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