研究課題
我々は、脊髄損傷モデル動物に対するiPS細胞由来神経幹細胞/前駆細胞(iPSC-NS/PCs)を用いた細胞移植の有効性を報告してきたが、一部の細胞株では腫瘍を形成することも明らかとなっている。出来る腫瘍が奇形腫ではなく神経原性腫瘍であることから、未分化細胞の除去のみではなく、安全な細胞株を選定することが重要となってくる。当該年度は、iPSC-NS/PCsの一塩基変異(SNV)解析、コピー数変異(CNV)解析、DNAメチル化解析などを行うことで、腫瘍化を起こすより詳細なメカニズムを解明し、iPSC-NS/PCsの安全性評価項目を作成することを目指した。今回は、京都大学で樹立されたヒトiPS細胞4株(造腫瘍性あり:253G1・836B3、造腫瘍性なし:201B7・414C2)のうち、253G1と201B7およびこれらの各細胞株をiPSC-NS/PCsへ分化誘導したものを用いた。SNV解析はIon Ampliseq Cancer panelを用いてTargeted deep sequenceを行い、CNV解析はInfinium human OmniExpress-24で行い、DNAメチル化解析は Infinium Methylation-450とMass Arrayを用いた。SNV解析とDNAメチル化解析、CNV解析において、造腫瘍性を持つ細胞株に特異的な変化を認め、その中にPSMD5などの腫瘍抑制遺伝子のゲノム/エピゲノム変異や、第2染色体長腕のCNVを認め、Wntシグナルなどの細胞増殖に関わる腫瘍関連遺伝子のエピゲノム異常が含まれていた。また、SNV解析、DNAメチル化解析、CNV解析結果から、NS/PCsの継代を重ねるとゲノム不安定性が上昇することが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通りに、異なるiPS細胞を用いた腫瘍化に関する解析をin vitroおよびin vivoで行い、iPS-NS/PCsの腫瘍化に関わる因子についての成果を挙げると共に、成果の一部を論文として報告できたため。
本成果により、臨床応用可能なiPS-NS/PCsを作製する過程で、安全評価基準の中にその継代数や腫瘍化に関わるDNAメチル化異常の有無の項目を追加することができた。これらの評価項目をさらに詳細に検討すると共に、別のiPS細胞株を用いて同様の実験を行い、さらなる知見を得る。本研究課題の成果を包括し、安全なiPS細胞株、iPS-NS/PCsの作製および造腫瘍性の制御の一助としたい。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件)
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