研究課題/領域番号 |
15K10425
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
酒井 義人 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 整形外科部, 部長 (70378107)
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研究分担者 |
原田 敦 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 病院, 病院長 (80198910)
佐竹 昭介 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老年学・社会科学研究センター フレイル研究部, フレイル予防医学研究室長 (50508116)
伊藤 研悠 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (10732638)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脊椎変性疾患 / サルコペニア / フレイル |
研究実績の概要 |
高齢者における脊椎疾患により介護が必要となることは少なくなく、ロコモティブシンドロームの重要な疾患として特に頚椎症、腰部脊柱管狭窄症は位置づけられる。一方、高齢医学では加齢性筋肉減少症(サルコペニア)や虚弱(フレイル)が高齢者の運動器障害として注目され、予防や治療の開発に研究が進められている。本研究では脊椎疾患治療における高齢医学上のこれら問題を評価基盤として、サルコペニアとしての骨格筋の生理状態や栄養・代謝状態も加味した上で脊椎疾患治療成績向上に寄与可能か調査し、高齢者特有の治療効果に影響する因子を特定するとともに、骨格筋の量的改善を補助的治療として用いて脊椎疾患治療における高齢者の日常生活動作の改善の一助とすることを目的としている。 サルコペニアの疾患としての認識意義は一般健常者の予防的側面と、運動器疾患患者の治療的側面とではアプローチの仕方が異なると思われる。学術的には前者の立場で定義付けが行われており、骨格筋量以外に握力や歩行速度といった運動器疾患患者では評価が難しい評価や加齢による骨格筋量減少以外の要素が含まれた評価基準となっている。この矛盾を脊椎疾患患者で示すことができた意義は大きく、また運動器疾患を呈する高齢者における適切な評価法としてDXA法を推奨する研究結果も今後議論されるべき問題と考える。さらに慢性疼痛と加齢による慢性炎症の点から論じたサルコペニアの関連の研究結果や、高齢者運動器疾患のなかでも最もADL低下に関連する骨粗鬆症性疾患における骨格筋量の重要性についての研究結果も我が国の高齢者の健康寿命を論ずる上で先駆的報告となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
65歳以上の頚髄症146例、腰部脊柱管狭窄症235例、3ヶ月以上持続する慢性腰痛症99例、骨粗鬆症性椎体骨折374例の骨格筋量データ収集が終了し、各疾患におけるサルコペニア骨格筋指数(SMI)の日本人基準では頚髄症32.0%、腰部脊柱管狭窄症26.8%、慢性腰痛症33.3%、骨粗鬆症性椎体骨折68.6%であった。評価法として推奨される二重エネルギー吸収測定法(DXA法)と簡便な生体インピーダンス法(BIA法)を比較するため、両法を試みた65歳以上の頚髄症32例、腰部脊柱管狭窄症195例、骨粗鬆症性椎体骨折185例)のデータを比較した。DXA法は407例、BIA法は208例に施行可能であり、両SMIの差は平均3.95kgと有意差を認め、級内相関係数は0.546(95%CI:0.44-0.64)と高くなく、サルコペニア基準がDXA法52.1%、BIA法39.4%と有意にBIA法で低く、両測定法の基準から得られたκ係数は0.542(95%CI:0.42-0.66)と信頼性は高くなかった。この結果から運動器疾患ではDXA法を推奨する。またサルコペニアの基準には骨格筋量以外にも握力、歩行速度が含まれているが、このことが歩行速度の低下する腰部脊柱管狭窄症でいかに影響するか、65歳以上の235例(平均73.2歳、男135例、女100例)を対象に評価した。基準値以下は握力71例(30.2%)、歩行速度42例(17.9%)で、AWGS基準でサルコペニアは33例(14.0%)、プレサルコペニアは31例(13.2%)に認めた。歩行速度は腰部脊柱管狭窄症の疾患自体が影響するため、握力のみで評価したサルコペニア28例(11.9%)とプレサルコペニア35例(14.9%)を比較すると、両群間で手術成績に有意差は認めなかった。運動器疾患でのサルコペニア評価は骨格筋量のみの評価を推奨する結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度研究で種々の脊椎変性疾患においてサルコペニアの影響が認められることが示唆され、本年度研究で従来のサルコペニア基準のあり方に疑問を投げかける研究結果であった。 引き続き脊椎脊髄病疾患の領域では従来あまり着目されてこなかった骨格筋の治療への関与における重要性について啓蒙できるようなデータ収集と解析に努めるとともに、運動器疾患を治療する立場からサルコペアの評価基準を提言できるようなデータ収集も行っていく。具体的には頚髄症や腰部脊柱管狭窄症といった手術治療が主となる疾患では、術後1年における治療成績と術前後の骨格筋量の変化を前向きに調査することにより、骨格筋量の増強の有効性を裏付ける臨床データを収集する。慢性腰痛症とサルコペニアの関連についての研究は世界的にも例がなく、疼痛やADLの観点のみならず、栄養面からも多角的に論じる必要があると思われ、骨粗鬆症とサルコペニアの両疾患の共通点であるビタミンD低下を重点的に評価し、ビタミンD補充療法の有効性についての情報を得る。骨粗鬆症性椎体骨折については、介入による骨格筋増強の疾患治療への効果を評価することが重要であるが、疾患特性により運動による骨格筋の増強は限定されるためまず運動や栄養による筋増強が治療効果に関与することを裏付ける医学情報を求めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
データ解析等、研究補助に人件費が必要なため。
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次年度使用額の使用計画 |
データ測定、解析等に研究補助者を増員する。
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