研究課題/領域番号 |
15K10426
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
橋本 有弘 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 再生再建医学研究部, 部長 (00208456)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨格筋 / サルコペニア / 筋分化 / 老化 / 筋細胞 / 不死化 / 酸化ストレス / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
1.成人由来未分化筋細胞のストレスに対する応答を抑制あるいは促進する液性因子の探索 成人由来未分化筋細胞は、増殖培地pmGM中での細胞増殖には、培地添加物Ultroser Gが必須であることが、前年度の研究から明らかになった。グルココルチコイド受容体アンタゴニストを添加するとpmGM中での細胞増殖は著しく抑制された。前年度の研究により、培地添加物Ultroser Gの増殖促進作用は、bFGF, HGF, IGF-1およびグルココルチコイドによって代替可能であることが示されたが、この4因子の中でもグルココルチコイドがヒト未分化筋細胞の増殖に必須の因子であることが明らかになった。 マウス未分化筋細胞のストレス応答をヒト未分化筋細胞と比較検討した結果、著しい違いがあることを明らかにした。マウス未分化筋細胞は、軽微な酸化ストレス(100 μM 過酸化水素、2時間)に曝されると、核の肥大化というヒト筋細胞には見られない特徴的な形態変化を示した。この時、細胞増殖は抑制されたが、ヒト未分化筋細胞のような明確な細胞周期のG1期停止は認められなかった。また、酸化ストレスによる細胞増殖の抑制は、グルココルチコイドによって解除されなかった。グルココルチコイドに対する応答性は、ヒトとマウスの未分化筋細胞で、大きく異なっていることが、明確に示された。動物実験の結果をヒトに外挿するうえで、考慮すべき課題が提起された。 2. 高齢者由来骨格筋細胞の増殖及び筋分化能力の解明 82歳および86歳の女性骨格筋から樹立した不死化未分化筋細胞の増殖能および筋分化能を、成人由来未分化筋細胞(42歳女性由来)と比較検討したところ、いずれについても明確な違いは認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していた、研究項目「成人由来未分化筋細胞のストレスに対する応答を抑制あるいは促進する液性因子(成長因子、ホルモンなど)の探索」および「高齢者由来骨格筋細胞の増殖及び筋分化能力の解明」については、概ね順調に達成することができた。 平成28年度に、別の研究課題において、実施を計画していたサルコペニア患者由来の不死化筋細胞の樹立は、研究目的に適合する筋組織が入手出来なかったため、実施しなかった。それにともない、追加研究項目として計画していたサルコペニア患者由来不死化筋細胞の解析は中止した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2項目についての解析を追加実施する計画である。 追加研究項目①:ヒト未分化筋細胞と最終分化筋細胞(筋線維)のストレス応答性の違いを明らかにするため、酸化ストレス負荷後の遺伝子発現パターンの解析を行う。追加研究項目②:平成28年度の研究によって、ヒトとマウス未分化筋細胞のストレス応答に違いが見いだされたことを受けて、平成29年度においては、実施予定の「不死化した高齢者由来未分化筋細胞の特性解明」に加えて、ヒトとマウス未分化筋細胞の性質の違いについて、ホルモンおよびストレス応答性に注目してさらに詳細に解析する。 以下の研究実施計画については、大きく変更する必要はないと考えている。 ①高齢者由来骨格筋細胞の増殖及び筋分化能力の解明:成人由来骨格筋細胞の解析によって明らかになった液性因子が、高齢者由来骨格筋細胞の増殖及び筋分化にあたえる影響を、多検体用画像解析装置を用いた核数の定量、ならびに増殖マーカー、分化マーカーの抗体による検出、DNA合成の有無を指標として明らかにする。 ②高齢者由来骨格筋細胞のストレス刺激に対する応答性の解明:高齢者由来骨格筋細胞のストレス応答性を調べ、成人由来骨格筋細胞の応答と比較検討する。成人由来骨格筋細胞との違いが明らかになった場合は、そのストレス刺激に係わるシグナル系の動態について、抗体染色およびイムノブロットを用いて検討し、作用機序を明らかにする。 ③グルココルチコイドの高齢者由来未分化筋細胞に対する影響の解明:グルココルチコイドが、高齢者由来未分化筋細胞のストレス刺激に対する耐性を昂進する可能性を検討する。細胞死、細胞増殖、筋分化を指標として、成人由来骨格筋細胞の解析から得られた候補因子であるグルココルチコイドのストレス刺激に対す緩和効果を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
別研究において計画していたサルコペニア筋からの筋生検が実施できなかったため、初代培養、不死化、性状解析等の出費がなくなり、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
1)細胞培養器具、試薬、抗体の購入、2)共同研究と情報収集のための旅費、3)データ解析等の補助作業等のための人件費に使用する予定。
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