デスモイド腫瘍は小児から成人までの四肢及び体幹に発生し、非常に強い局所浸潤傾向を示す腫瘍性疾患であり、転移をすることはないが、局所浸潤性が強く、運動器の機能障害を生じ、時に重要臓器への浸潤のため致死的となる。治療は、手術療法および薬物療法があるが、標準的治療方法は確立していない。デスモイド腫瘍の発症には、Wnt/β-cateninシグナル異常の存在が知られているが、これらの遺伝子異常のないデスモイド腫瘍が存し、APC遺伝子の異常による家族性大腸腺腫症患者のデスモイド腫瘍罹患率が10%と低いことから、他のデスモイド腫瘍のドライバー遺伝子の存在が示唆されている。本研究では、腫瘍のcDNAライブラリーと次世代シーケンサーを用いた網羅的手法を用いて、デスモイド腫瘍の腫瘍原生に関わるゲノム異常を同定し、その病態を解明することで、新規治療ターゲットを探索することを目的とし、研究を行った。 まず、腫瘍細胞のcDNAライブラリーの作成を合計8例の症例を用いて行い、細胞株にレトロウィルスベクターを用いて強制発現し、腫瘍原生に関与する遺伝子の探索を行ったが、それぞれの結果が一定せず、腫瘍原生にかかわる遺伝子の同定には至らなかった。また、次世代シーケンサーを用いた解析については少数の解析の段階では既知の変異のみしか同定されなかったこと、当院が参加しているゲノムコンソーシアムでもデスモイド腫瘍に対するゲノム解析を行うこととなったこと、デスモイド腫瘍の新規症例がなかったことから、当研究での解析を中止した。また、主任研究者の移動に伴って、主任研究施設での研究での遂行が困難となり、研究が滞ったため研究費を返済することとした。
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