研究課題/領域番号 |
15K10439
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松下 雅樹 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (60721115)
|
研究分担者 |
鬼頭 浩史 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (40291174)
三島 健一 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座助教 (40646519)
杉浦 洋 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (40750477)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 軟骨無形成症 / FGFR3 / 低身長 / メクロジン / 大後頭孔 |
研究実績の概要 |
軟骨無形成症(achondroplasia : ACH)は骨の成長抑制因子である線維芽細胞増殖因子受容体3 (fibroblast growth factor receptor 3 : FGFR3)の機能獲得型変異による過剰なFGFR3の活性化が原因であり、低身長に加えて脊柱管狭窄症・大後頭孔狭窄などの重篤な合併症も生じる。ACHにおけるFGFR3の活性を抑える根本的治療法はない。我々は既存薬のスクリーニングにより、一般用医薬品(OTC医薬品)の乗り物酔い防止薬で抗ヒスタミン薬であるメクロジンが異常に活性化したFGFR3シグナルを抑制し、成長期のACHモデルマウスにメクロジン混餌(0.4 g/kg)投与により骨伸長が促進されることをすでに見出した。昨年度は、メクロジン混餌(0.4 g/kg)を母体投与し、仔ACHモデルマウスにおける大後頭孔狭窄をレスキューする傾向を見出したがメクロジンの胎盤移行性が低いことから有意差が認められなかった。また、これまでの混餌投与によるデータでは正確な投与量の決定は困難であり、本年度は各種濃度のメクロジンを強制経口投与することにより有効投与量を検討した。マウスにメクロジン 2 mg/kg を単回投与した時の薬物動態はヒトにメクロジン25 mg/bodyを単回投与した時の薬物動態に酷似していた。また、連続投与における血中濃度変化のシミュレーションを行うと、20 mg/kgでは蓄積性が認められたが2 mg/kgでは認められなかった。次にACHモデルマウスに連日強制経口投与により、メクロジン1または2 mg/kg/dayに骨伸張効果が確認できた一方、20 mg/kg/dayの連日投与は毒性が懸念された。ヒトにおいて乗り物酔い止め薬としての効能を発揮するメクロジン25 mg/bodyの連日投与により軟骨無形成症における低身長を改善する可能性がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、メクロジン混餌(0.4 g/kg)を母体投与し、仔ACHモデルマウスにおける大後頭孔狭窄をレスキューする傾向を見出したがメクロジンの胎盤移行性が低いことから有意差が認められなかった。これらの結果はJ Neurosurg Pediatr.に掲載された。しかし、これまでの混餌投与によるデータでは正確な投与量の決定は困難であり、本年度は各種濃度のメクロジンを強制経口投与することにより有効投与量を検討した。 マウスにメクロジン 2 mg/kg を単回投与した時の薬物動態はヒトにメクロジン25 mg/bodyを単回投与した時の薬物動態に酷似していた。また、連続投与における血中濃度変化のシミュレーションを行うと、20 mg/kgでは蓄積性が認められたが2 mg/kgでは認められなかった。次にACHモデルマウスにメクロジンを連日強制経口投与すると、全長、各長管骨の長さおよび骨量は1または2 mg/kg/dayの投与により有意に増加したが、20 mg/kg/dayでは有効性が認められなかった。また、メクロジン 1または2 mg/kg/dayの有効性は組織学的にも確認することができた。一方、いずれの投与量においても大後頭孔の面積は変化しなかった。また、生後4.5日齢のACHモデルマウスの大後頭孔周辺の軟骨結合はすでに閉鎖していることを確認した。 以上の結果よりマウスにおいてメクロジン1または2 mg/kg/dayに骨伸張効果が確認できたが、生後7日齢からの投与では大後頭孔狭窄をレスキューするのは困難であることが示唆された。ヒトにおいて乗り物酔い止め薬としての効能を発揮するメクロジン25 mg/bodyの連日投与により軟骨無形成症における低身長を改善する可能性がある。 以上結果は現在英文雑誌に投稿中であることから、おおむね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
マウスにおいてメクロジン1または2 mg/kg/day投与により骨伸張効果があることが確認できた。しかし、すでに頭蓋底の軟骨結合が閉鎖している生後7日齢からのメクロジン投与では大後頭孔狭窄をレスキューするのは困難である。一方、メクロジンは胎盤移行性が低いため1または2 mg/kg/dayの母体投与では胎仔のFGFR3シグナルの抑制は困難である。よって、ACHにおける脊柱管狭窄およびTDの表現系をレスキューする目的で行う母体投与の基礎実験は、より高濃度のメクロジンを投与する必要があると思われる。 ACHモデルマウスにおいて骨密度などの骨質が低下していることがすでに報告されている。今年度に我々はヒトACH患者において骨密度が低下していることを報告した。(Pediatr Int.)今後はメクロジン1または2 mg/kg/dayにおいて骨伸張効果以外に骨質改善効果があるかどうか検討し、メクロジン1または2 mg/kg/dayの有効性のデータを追加する。さらに、モデルマウスに2 mg/kg/dayより高濃度のメクロジンを母体に強制経口投与した系を用いてACHにおける脊柱管狭窄およびTDへの有効性を検討し、さらにラットや家兎の片側の膝関節骨端骨髄にメクロジンの局所投与による骨伸張促進効果を検討する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
モデルマウスの自然交配が順調であったため、新規マウスの購入や体外受精による個体の作成をする機会が少なかった。また、既存の設備や物品を用いて行なう実験が多かった。これらにより新規購入物品や消耗品が予定額より少なかったことから次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度の実験によりマウスにおいて骨伸張効果を呈するメクロジンの有効投与量を推察することができた。来年度には、メクロジンによるFGFR3シグナルの抑制効果をin vivoにおいて証明することを目標としている。また、今年度行わなかったラットや家兎の片側の膝関節骨端骨髄へのメクロジンの局所投与による骨伸張促進効果の検討を行う予定である。以上の実験に予算が必要である。
|