研究課題/領域番号 |
15K10440
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
松峯 昭彦 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00335118)
|
研究分担者 |
柿本 拓也 三重大学, 医学部附属病院, 医員 (50741162)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | エクソソーム / 骨肉腫 / 肺転移 / 予後 / バイオマーカー / 分子標的 |
研究実績の概要 |
我々は、肉腫の進展や遠隔転移に関わるエクソソーム内miRNAを同定し、同定したmiRNAによる腫瘍進展のメカニズムの解析を行うことを計画した。同定されたエクソソーム内包miRNAは肉腫の存在、再発/遠隔転移を早期発見するための重要なバイオマーカーになるだけでなく、新規治療ターゲットとなる可能性があり、肉腫の治療成績の向上につながると期待できる。今年度は、以下のことを行った。 ① 骨肉腫患者(予後良好群および予後不良群)および良性骨腫瘍の血清からのエクソソームの分離を行った(各5例)。我々はすでに三重大学研究倫理委員会にて承認され、さらに患者への十分なインフォームド・コンセントのもと採取した血液サンプルからエクソソームを超遠心法を用いて回収し、抗テトラスパニン抗体でのWestern blottingとフローサイトメトリーを用いて、確実に回収できていることを確認した。そして、血清中のエクソソーム内miRNAを抽出し、網羅的発現解析を高感度DNAチップで用いて行ったところ、骨肉腫の肺転移と関連のあるmiRNA候補を52種類同定した。 ②マウス骨肉腫細胞株(Dunn)と、その高肺転移株であるマウス骨肉腫細胞株(LM8)の培養上清から、エクソソームを分離精製し、そのエクソソームの生物学的活性を、in vitro, in vivoで検証したところ、LM8からのエクソソームは、Dann骨肉腫細胞株の細胞移動能と増殖能を増強することがわかった。 ③LM8 とDannの培養上清中のエクソソーム内miRNAを抽出し、網羅的発現解析を高感度DNAチップで用いて行ったところ、骨肉腫の肺転移と関連のあるmiRNA候補を20種類同定した。 ④ヒトサンプルでのmiRNA(実験①)とマウス細胞株でのデーターを照合したところ、miR-Aおよび miR-B骨肉腫肺転移に重要な役割を果たしていることが推測された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究において、研究期間内に明らかにしたいこととして、以下の6項目を目標として設定した。① 肉腫患者(予後良好群および予後不良群)の血清からエクソソームを分離し、エクソソーム数と肉腫患者の予後との関連を検討する。②高肺転移株であるマウス骨肉腫細胞株(LM8)の培養上清から、エクソソームを分離精製し、そのエクソソームの生物学的活性を、in vitro, in vivoで検証する。③肉腫患者の血清中のエクソソーム内のmiRNAの発現プロファイリングを行う。統計学的処理により、肉腫の存在や遠隔転移に関連するmiRNAをバイオマーカー候補として同定する。④より多くの臨床検体(血清)を用いて、バイオマーカー候補のエクソソーム内miRNAの発現を検討し、肉腫患者の病変の進展や遠隔転移と関連する“真のバイオマーカー”を見つけ出す。⑤バイオマーカーとして得られたmiRNAが本当に、“前転移ニッチの教育”に関与しているのかどうかを、細胞生物学的/分子生物学的な手法を用いて検討する。⑥肉腫には多くの組織型が存在するため、診断がきわめて困難なものも多い。そこで、肉腫の組織型特異的なmiRNAの存在の有無を検証する。 その上で、平成27年度には、「肉腫患者の血清エクソソーム数と予後との関連性を検討すると同時に、肉腫培養細胞から単離したエクソソームを用いて、その生物学的活性の検証を行う」という目標を当初設定していた。目標としていた、6項目の内、①から③は達成したので、ほぼ計画通りに研究は進行していると考えている。但し、現在骨肉腫に絞って研究を進めているので、今後、組織型を広げて検討する必要があるだろう。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の様に、今後の研究を進める予定である。 ①さらに多くの臨床検体(血清)を用いて、候補としてピックアップされたエクソソームmiRNAの発現を検討し、肉腫患者の再発や遠隔転移と関連する“真のバイオマーカー”の検討を行う。② バイオマーカーとして最終的に得られたエクソソームに内包されたmiRNAの機能解析。現在、LM8から分離されたmiR-A, miR-Bは、autocrineに作用して、Dannの細胞移動能や増殖能を増強することが明らかとなったが、miR-A, miR-Bが、“前転移ニッチの教育”に関与しているのかはまだ不明である、血管内皮細胞培養株、線維芽細胞、肺胞上皮細胞に対する影響を細胞生物学的手法で検証する必要がある。③miRNAが標的する遺伝子を予測するためのアルゴリズム(miRnada、TargetScanなど)を用いてmiRNAの標的遺伝子の予測を行い、さらに詳細な骨肉腫肺転移制御のメカニズムを明らかにする必要がある。細胞内シグナル伝達も明らかにする必要がある。④エクソソームは、効率よく目的とする細胞に薬剤を運搬するDDSとしての機能も期待されている。現在特定のmiRNAをエクソソームに内包させる技術は存在しないが、数年以内にそのような技術が実現している可能性もある。その際にはマウスに移植したヒト肉腫の系を使って人工エクソソームに内包されたmiRNAの投与実験を行う。⑤肉腫の組織型特異的なmiRNAの存在の有無の検証 今回検討しているのは骨肉腫だけである。肉腫には多くの組織型が存在するため、診断がきわめて困難なものも多い。しかし、多くの臨床検体からのデーターを再度検討する課程で、肉腫の組織型特異的なmiRNAの存在が明らかとなる可能性がある。その場合は、骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)などのネットワークを利用して、多施設共同研究として研究を進める。
|