研究課題/領域番号 |
15K10442
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡 久仁洋 大阪大学, 保健センター, 助教 (50724085)
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研究分担者 |
田中 啓之 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00432542)
岡田 潔 大阪大学, 医学部附属病院, 講師 (40576279)
村瀬 剛 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (50335361)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ナビゲーションシステム / 関節鏡 / 手術シミュレーション / 運動解析 / バイオメカニクス |
研究実績の概要 |
変形性肘関節症に対する、標準的な治療は観血的もしくは関節鏡を用いて関節運動を障害している骨棘の切除が行われる。しかし、肘関節鏡は難易度の高い手術であり整形外科で上肢を専門とする医師でも一部のエキスパートのみが行える手術である。また、熟練した術者であっても2次元画像に基づいた治療計画やマニュアル操作による手術などの従来技術に頼った治療方法では、的確に骨棘を切除することは困難で骨棘の切除不足による可動域制限の残存や不適切な切除による術後関節症の再発、悪化など、その治療成績には限界があった。そこで3次元動態解析法と最新の3次元手術シミュレーション、ナビゲーションシステムを融合した新規の治療法の確立を目指し研究を進めてきた。平成27年度までに既存のナビゲーションシステムと同期可能な手術シミュレーションシステムを開発し、術中に術者がナビゲーションモニターで病変部位を3次元的に視覚化できる機能を開発した。平成28年度は、模擬骨を用いて、3次元手術シミュレーションシステムの精度検証を行った。変形性肘関節症のCTデータか樹脂製の3次元骨モデルを作成し、ナビゲーションシステムが正確に3次元骨モデルの位置関係を認識できているかを評価した。3次元骨モデルの空位位置を正確に評価できなければ、病変部位を表示するナビゲーションにも誤差が生じるため、ナビゲーションシステムで一般的に許容されている1°、1mm未満の精度を目指した。骨モデルの3次元空間位置を認識させる初期位置合わせの点の組合せを繰り返し評価し、上腕骨で1mm、1°未満の精度を確立することができた。また、実際の臨床では病変部を実際に描出した2色形成3次元骨モデルを術野に持ち込み手術支援材料として使用し、術後の関節可動域の改善度を引き続き評価し、良好な結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
変形性肘関節症に対する骨棘切除の手術シミュレーション法の開発において、前年度までに病変部を描出する基本プログラムとナビゲーションシステムと同期させるプログラムを予定通り開発した。平成28年度は、前年度までに開発したプログラムの精度調査に着手した。変形性肘関節症の樹脂製3次元骨モデルを作成し、ナビゲーションシステムにおける肘関節の3次元空間位置認識精度を評価した。ナビゲーションシステムは主として股関節、膝関節、脊椎などの大関節に使用され、研究が進んでいるが、肘関節における精度は明らかにされていない。まず、精度を向上させるための初期位置合わせのためのポイント検索を繰り返し行った。実際の関節鏡の手術を想定し、初期位置合わせで取得できるポイントを関節周囲および、上腕骨中央部に設定した。上腕骨では1°、1mm未満の精度を獲得できるポイントを設定することができた。尺骨は骨形状の特性のため、やや精度は落ちるが2°、1mm未満の精度を獲得することができた。今後さらに精度を向上させるためのポイント検索を行う予定である。さらに、病変部を切除する模擬手術を施行し、シミュレーションと術後の模擬骨を比較することにより手術の精度も評価する予定である。実臨床においては、平成27年度に引き続き、病変部分を視覚的に確認できる、手術支援2色成形3次元骨モデルを3次元プリンターで製造し、プレリミナリーに術中に持ち込んで、術者が手術の参考として用いて手術を行った。手術時間、術後の関節可動域、病変切除の正確性を評価した。引き続きデータを収集し、最終的には本技術との比較検討を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本技術の臨床での導入を目標として、本技術の精度を調査する。前年度までにナビゲーションシステムの肘関節における精度が明らかとなった。今後は、模擬骨を用いて手術の精度を評価する予定である。変形性肘関節症の模擬骨を用いて、切除部位をシミュレーションで決定し、ナビゲーションに従って、模擬手術を行い、手術後の骨モデルを取り出して、CT撮影を行い、切除後の模擬骨をコンピューター上で作成する。シミュレーションと術後の骨モデルを比較し、予定通り病変部位を切除できているかを確認することにより、本システムの精度を評価する。臨床導入に際して、ナビゲーションを肘関節で用いる場合、トラッカー(ナビゲーションに骨の位置を認識させる)を骨に設置する場所が問題となる。解剖学的に橈骨神経、尺骨神経などが走行しているため、神経を損傷する可能性がなく、安全にトラッカーを設置できる場所を、カダバーを用いて検証を行う。本システムが高精度であり、安全に手術を行えることを確認したのち、臨床応用を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
関節鏡システムの備品は、当該研究機関が所有する機器で代用できる物品に関しては購入を見送った。3Dプリンターを用いて切除予定部位を可視化したツートンカラーの実物大3次元骨モデルを製作する費用に関しては、他の競争的助成金にて購入可能であった。
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次年度使用額の使用計画 |
現在所有しているPCで対応不可能なプログラムの開発、ナビゲーションシステムに対応し、実験結果を解析するためのPCの購入が必要である。また、ナビゲーションの精度実験のためのツートンカラーの実物大3次元骨モデル、実験で必要な関節鏡、ナビゲーション関連の備品の購入を計画している。
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