研究課題
系統的化学療法導入により原発性悪性骨軟部腫瘍(以後、肉腫)の予後は改善したが、遠隔転移や薬剤耐性例を来した進行例の予後は極めて不良である。腫瘍の転移や薬剤耐性化においては、腫瘍細胞とその周辺の腫瘍間質との相互作用が重要な役割を担っている。本研究では、肉腫周囲の腫瘍間質細胞の中で、特に骨髄間質細胞(Bone marrow stromal cells: BMSC)に焦点をあて、肉腫の悪性化におけるBMSCの役割を解明するとともに、BMSCを標的とした新規治療法の開発をめざす。代表的な悪性骨腫瘍であるEwing肉腫は効率に骨/骨髄へ転移し、患者の予後を悪化させる。また、Cadherin-11(Cad-11)はカドヘリンファミリーの接着因子でBMSCに高発現することが知られており、前立腺癌や乳癌患者ではその発現が骨転移に関連していることが示唆されている。そこで本年度は、Ewing肉腫におけるBMSCの役割について検討した。その結果、Ewing肉腫細胞株とBMSCの異種細胞間接着に、Cad-11が重要な役割を果たしている事を見いだした。また、Cad-11はEwing肉腫細胞株の運動能を正に制御していることも明らかにした。In vivoにおいてマウス骨転移モデルで、Cad-11の発現抑制により骨転移が低下していた。さらに、Ewing肉腫患者において、Cad-11の高発現は骨転移と正相関し、多変量解析においても有意な予後不良因子の一つであった。これらの結果より、Cad-11は、Ewing肉腫の骨転移を促進している可能性が高く、Ewing肉腫の骨転移治療における有望な分子標的になりうると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
上記の成果はすでに「Cadherin-11 regulates the metastasis of Ewing sarcoma cells to bone. Clin Exp Metastasis. 2015, 32(6):579-91.」として論文発表され、国内外で高い評価を得ている。今後はCad-11阻害によるEwing肉腫の骨転移治療実験も準備中であり、研究計画は順調に進捗していると判断された。
本年度は、肉腫細胞の薬剤耐性化におけるBMSCの役割に関して、重点的に解析をすすめる。具体的な手法として、(1)複数の肉腫細胞株をBMSCと共培養することで、肉腫細胞が薬剤耐性化することを確認する。(2) 上記における、肉腫細胞の薬剤耐性化メカニズムをDNA microarray, proteosome、ギガシークエンサーなどを用いて解析し、候補となる遺伝子群をクラスタリング解析で同定する。(3) それらの遺伝子群のpathway解析や、転写因子結合部位解析を行い、上流に位置する遺伝子を探索する。薬剤耐性化に加え、細胞増殖などを同時制御する遺伝子が発見可能な可能性がある。(4)さらに、臨床検体を用いて、(1)-(3)で得られた結果を検証し、肉腫の薬剤耐性克服のための、新規治療法の開発を目指す。
実験を効率行う事により、消耗品の使用量が少なかったため。また、旅費に関しても十分に計画的に使用したため
本年度も計画的に、研究遂行のための各種試薬、実験動物の購入などに使用する。また、旅費を使用し国際学会においても発表を予定している。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件)
Clin Exp Metastasis.
巻: 32 ページ: 579-591
10.1007/s10585-015-9729-y.
Br J Cancer
巻: 112 ページ: 547-555
10.1038/bjc.2014.637.