研究課題
本研究では、変形性膝関節症、前十字靭帯損傷、半月板損傷患者の関節液中には滑膜間葉系幹細胞(滑膜幹細胞)と類似する間葉系幹細胞が、正常膝よりも多いことに着想を得た膝関節内を模倣する浮遊滑膜幹細胞遊走モデルを開発し、関節内組織損傷軽症例に対する薬剤の開発を目指す。本年度は、昨年度に引き続き、浮遊滑膜幹細胞遊走モデルを用いて、1) 滑膜から間葉系幹細胞が動員されるかどうか、2) 線維性滑膜と脂肪性滑膜で差があるかどうか、の検討をまとめ、査読付き論文(Arthroscopy-The Journal Of Arthroscopic And Related Surgery:IF 3.7)で発表した。変形性膝関節症患者の全人工膝関節置換術施行時に得られた2種の滑膜の比較では、膝蓋上嚢滑膜(線維性滑膜)と膝蓋下脂肪体(脂肪性滑膜)を浮遊させ、7日後のコロニー数の比較 (N=6)の結果、全例で、線維性滑膜の方が脂肪性滑膜よりも多くのコロニー形成を認めた(p<0.05 by Wilcoxon signed rank test)。浮遊滑膜モデルにより、膝関節内では、膝蓋下脂肪体よりも骨や関節包に隣接する線維性滑膜の方が、表面積が大きく、本研究結果から関節液中に動員する間葉系幹細胞の主要な供給源は線維性滑膜と推察された。本結果は、滑膜幹細胞を用いた薬剤開発において直接貢献しうるデータとなった。また、関節リウマチの滑膜においても変形性膝関節症の滑膜と同様に本モデルでコロニー形成されるかどうか、また形成されるのであれば得られたMSCsにOAとの違いがあるかどうか、についての検討を開始した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に学会発表していた内容は英文論文に掲載された。また、使用する組織の特性が薬剤スクリーニングの指標となるコロニー形成に影響を与えることが確認できたことは、当初の計画を超えた内容であり、今後のスクリーニングシステム設計に有用な情報となった。
使用する組織の特性が薬剤スクリーニングの奏功に大きく影響することから、組織の特性解析に関しては十分な検討を行いつつ、研究を進めていく。
本年度は申請時の予定には含めていなかった低分子化合物スクリーニングシステムに使用する組織の特性に関する研究がまとまったため、論文化を先に行ったことから、システム設計用に確保していた費用が余剰となったから。
これまでの研究結果により、当初の計画では考慮されていなかった、組織の特性がスクリーニング指標に与える影響についてのデータを蓄積することができた。これらのデータを活用し、次年度は、システム開発に必要な試薬・血清等の一括購入を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Arthroscopy
巻: 33 ページ: 800-810
10.1016/j.arthro.2016.09.033.