研究課題
閉経によるエストロゲン欠乏により発症することが知られている閉経後骨粗鬆症は、骨吸収を担う破骨細胞の活性が骨形成を制御する骨芽細胞の活性を相対的に上回るために、骨量が減少することで発症することが知られている。しかし、エストロゲンが欠乏するとなぜ破骨細胞が活性化するのか、その分子機構については不明であった。申請者らは、閉経前のエストロゲン充足状況では、エストロゲンが恒常的に破骨細胞に発現するhypoxia inducible factor 1 alpha (HIF1α)をタンパク質レベルで抑制していること、閉経によるエストロゲン欠乏によってはそのHIF1αの抑制ができず、破骨細胞が活性化し、骨量が減少することにつがなることを報告した(Proc Natl Acad Sci U S A. 2013)。また、ビタミンDアナログの1つであるED71は、天然型のビタミンDにはない破骨細胞のHIF1αのタンパク質レベルでの抑制効果があることを見出し報告した(PLOS One 2014)。さらに、男性骨粗鬆症でも女性の閉経によるエストロゲン欠乏時と同様に、アンドロゲン欠乏によって破骨細胞にHIF1αがタンパク質レベルで蓄積し、破骨細胞の活性化から骨量減少をおこすこと、HIF1α阻害薬の投与によって男性骨粗鬆症モデルorchidectomy (ORX)マウスにおいては骨量減少を完全にブロックできることを報告した(Biochem Biophys Res Commun. 2016)。本研究ではさらに、すでに臨床応用されている複数の薬剤に破骨細胞のHIF1αの抑制活性があること、これらの薬剤の投与によりORXマウスにおける骨量減少が完全にブロックできることを報告した(Biochem Biophys Res Commun. 2017)。
2: おおむね順調に進展している
申請者らは破骨細胞のHIF1αが男女とも性ホルモン欠乏によりタンパク質レベルで蓄積を起こすこと、閉経後骨粗鬆症のみならず、男性の性ホルモン欠乏性骨粗鬆症においても治療標的であることを報告した。さらに、骨粗鬆症の治療薬で、破骨細胞による骨吸収活性を抑制することが報告されているビタミンDアナログED71には、破骨細胞の抑制能がない天然型のビタミンDにはない破骨細胞のHIF1αの抑制効果があることを見出している。これらに加えて、破骨細胞のHIF1αが男性骨粗鬆症においても治療標的となり得ること、破骨細胞のHIF1αを阻害する効果を有する薬剤をすでに複数同定したこと、これらの薬剤はいずれも男性骨粗鬆症モデルにおける骨量減少を完全にブロックすることを実験的に証明した点などにおいて、概ね研究が順調に進展していると評価できると考えている。
男女における性腺機能低下による骨粗鬆症の治療標的として、破骨細胞のHIF1αを同定した。骨粗鬆症は性ホルモン低下に限らず、炎症性疾患によるものなど、様々な要因で発症することが知られている。今後は、破骨細胞のHIF1αが性ホルモン低下によるもの以外の骨粗鬆症においても治療標的となり得るか、検証したいと考えている。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 10件)
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