研究実績の概要 |
本研究は、変形性膝関節症(膝OA)の病態解析を、我々の過去の研究成果をふまえ、関節軟骨のみを主眼とせず、主に滑膜に焦点をあて、この観点にて基礎及び臨床の両面から行うものである。 我々は、末期膝OAによる疼痛と日常生活動作(ADL)障害のため人工膝関節置換術(TKA)を受けた患者の臨床症状が、単純X線による膝OAの重症度や関節可動域などとは関連せず、関節内の滑膜炎の程度と相関することを示した(Liu, Ishijima, et al, Clin Rheumatol, 29, 1185-90, 2010)。しかし、この臨床症状と相関する滑膜炎が、膝OAのどのような病態と関連するかは不明であった。 そこで平成27年度は、末期膝OAにてTKAを受けた40名を対象に、膝関節内の滑膜炎の程度と、MRIによる膝OA関節内病変の半定量法であるwhole organ magnetic resonance imaging score (WORMS)法に従い、①軟骨病変,②軟骨下骨の骨髄異常陰影(BML),③軟骨下骨陥凹(SBA),④骨嚢腫(SBC),⑤骨棘,⑥半月板病変,⑦靭帯,⑧滑膜炎の8病変について、その重症度を半定量化することで、滑膜炎と関連する膝OAの病態を検討した。対象者の手術を受ける際の患者立脚型機能評価尺度であるJKOMスコアには、100点満点中約30点から95点まで幅があるが、WORMSで評価した関節軟骨損傷須スコアや半月板、そして骨棘などはJKOMスコアとの間に関連を認めなかった。しかし、軟骨下骨の病変であるBML,SBAそしてSBCがそれぞれJKOMスコアと相関を認めた。以上より、末期膝OAの臨床症状と関連する滑膜炎の程度は、軟骨下骨病変の程度と相関することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の如く、H27年度に、本研究課題の大きなテーマの一つである、臨床研究において膝OAの疼痛を主とした臨床症状は,関節内の滑膜炎に相関し、特に末期膝OAでは,MRIにて検出される骨髄異常陰影(BMLs)が疼痛を含めた臨床症状に関連する、という仮説を証明できたことから、順調に進展していると考えている。さらに、BMLsのみではなく、MRIにて認められるSBAやSBCも滑膜炎と相関するということが明らかとなったことは、関節外病変と滑膜炎という関節内病変がどのような機序で関連するのかという新たな疑問が生じるに至った。次年度以降、これらについても、わずかずつではあるものの、検討を重ねていきたいと考えている。
|