研究課題
平成28年度も、変形性膝関節症(膝OA)についての[1]基礎及び[2]臨床研究を平行して進めた。基礎研究では、関節軟骨辺縁の滑膜に存在する間葉系幹細胞が軟骨細胞に分化し形成される「骨棘」の病態解析を進めた。臨床研究では、先行研究の末期膝OAにおける手術適応のリスク因子の解析を進めた。[1] 膝関節内では滑膜でヘパラン硫酸プロテオグリカン・パールカンが発現しないマウスを用い、その滑膜をマイクロマス法にて軟骨分化誘導した。パールカンを発現する対象群では、軟骨分化のマスター遺伝子のSox9と2型コラーゲンの発現を認め、豊富な軟骨基質に富む軟骨様組織ができる。一方、パールカン欠損にてSox9と2型コラーゲンの発現が抑制され、軟骨様組織の形成が阻害された。さらに、これにパールカンを添加することで軟骨様組織形成が再現された。以上から、膝OAの骨棘形成に似た過程をin vitroで再現したモデルにおいて、滑膜のパールカンが必須の役割を担うこと、そしてパールカンを用いることによるその制御の可能性を示した(JOR 2017)。[2] 末期膝OA患者が手術を受けるリスク因子を検討した以前の報告では、単純X線で評価した膝OAの重症度評価はリスク因子とはならず、臨床症状の中の、疼痛ではなくADL制限がリスク因子であった(J Bone Miner Metab 2014)。今回は、病態の評価を単純X線ではなくMRIを用いて手術を受けるリスク因子と関連する病態を検討した。そしてMRIでは軟骨病変や軟骨下骨病変ではなく、骨棘スコアがリスク因子であった(Mod Rheumatol 2017)。膝OAの骨棘は、従来病態の二次性変化として、臨床的意義に乏しいと考えられてきたが、近年病態に重要な役割を担うことが明らかとなってきた。さらに病態解明を進めるとともに、その制御も視野に入れながらさらに検討を進めていく。
1: 当初の計画以上に進展している
H27年度に、本研究課題の大きなテーマの一つである、臨床研究において膝OAの疼痛を主とした臨床症状は,関節内の滑膜炎に相関し、特に末期膝OAでは,MRIにて検出される骨髄異常陰影(BMLs)が疼痛を含めた臨床症状に関連する、という仮説を証明できた。さらに、H28年度に、基礎研究において、滑膜に発現するパールカンによる滑膜間葉系細胞からの軟骨分化制御の可能性を示す研究を論文化できた。以上のように、H29年度を残し計画の中の大きなテーマの2つをまとめ上がることができたことから、当初の計画以上に進展していると考えている。
本研究課題は、変形性膝関節症について、基礎研究と臨床研究の2つから成り立っている。臨床研究では、すでに、初期変形性膝関節症においても、MRI上の軟骨病変と同程度かそれ以上の頻度で骨棘が認められること(Osteoarthritis Cartilage 2014)、そして末期変形性膝関節症の臨床症状と関連する滑膜炎が軟骨下骨病変と関連すること(Osteoarthritis Cartilage 2015)、を明らかにした。これを踏まえ、今後は前者については、骨棘が初期変形性膝関節症の病態にどのような役割を担うのか、そして後者については、軟骨下骨病変として関節外病変と、滑膜炎という関節内病変の関連がどのような機序で起こり得るのか、という課題についても検討を進めていく。基礎研究では、骨棘の病態の根幹をなす、滑膜間葉系細胞(mSMCs)の軟骨分化制御を見据えたヘパラン硫酸プロテオグリカンのパールカンに機能解析をさらに進めていく。
平成28年度は、上述の如く、概ね順調に計画を進めることができた。大きくは臨床研究と基礎研究の2本立てからなる本計画において、基礎研究で使用する研究費が当初の予定よりも少なかったことが次年度使用額を生じた主な理由である。
平成29年度は、当初の計画通り基礎研究を進めるとともに、平成28年度の臨床研究のヒト滑膜サンプルを使用した研究も当初の予定通り進めていくため、実験に使用するための研究費を使用する割合が増加することが予想される。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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