研究課題/領域番号 |
15K10510
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
西脇 公俊 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10189326)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞透過性 / 神経原生肺水腫 / 肺動脈血管内皮細胞 / 神経ペプチドY / アドレナリン |
研究実績の概要 |
肺動脈血管内皮細胞層における透過性亢進作用を検討する試験系として、下部に1 µmの孔を持つ膜のついたインターセル内に細胞を播種し、3日間培養することで膜上に細胞バリアを形成させた後、インターセル内に薬物と共に蛍光物質FITCで標識されたアルブミンを添加して、反応終了後のインターセル外側ウェル中培地の蛍光強度を測定する方法を確立している。この系を用いてLipopolysaccharideや血管内皮細胞成長因子(VEGF)など、数種の既報の血管内皮細胞透過性亢進物質の作用を検討したところ、検討した全ての物質で報告どおりの有意な透過性亢進作用が認められている。しかしながら、我々が神経原生肺水腫発症に関与すると考えている神経ペプチドY(NPY)はこの系で細胞透過性亢進作用を示さず、ノルアドレナリンとの共存下でも作用は認められていない。本年度は、この系を用い、未検討であったアドレナリン単独の作用を検討すると共に、NPYとの併用効果についても検討を行った。 アドレナリンは、神経原生肺水腫患者の血中で検出されるレベルである10-100 nMになるように、併用するNPYはラット脳死モデルにおける肺水腫液中濃度の100 nMになるように調製、添加し、37℃インキュベーター内で24時間反応を行った。その結果、アドレナリンは検討した濃度範囲において有意な細胞透過性亢進作用を示さなかった。また同様に、アドレナリン30および100 nMとNPY 100 nMとの併用でも細胞透過性に変化は見られなかった。以上の結果から、神経原生肺水腫における細胞透過性亢進は、アドレナリンやNPYが血管内皮細胞に直接的に作用することにより引き起こされるのではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々が確立した細胞透過性評価系を用いた検討において、神経原生肺水腫発症に関与すると考えているNPYが、通常の培養条件のみならず、低酸素やカテコールアミンとの併用など、実際の病態を考慮した培養条件下でも全く作用が認められないため、NPYの作用メカニズム解明に向けて今後どのように研究を進めていくのが良いか考えることに時間を要した。今年度に得られた実験結果も含め、NPYの作用点が肺血管内皮細胞以外にある可能性が示唆されたことは、今後を考える上で有益であった。 上記に加え、当初の優先検討課題であった「ラット脳死モデルでの神経原生肺水腫に関わるneuropeptidesの同定とVEGFの関与」について、ラットではなくマウスを用いて検討を開始しているが、研究に使用できる脳死モデルマウスの確立には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
In vivoにおける検討課題「脳死モデルでの神経原生肺水腫に関わるneuropeptidesの同定とVEGFの関与」について、マウス第四脳室への生理食塩水注入による脳死モデルの確立を目指し、引き続き検討を行う。生理食塩水注入後から6時間にわたり血液ガス分析による肺障害を評価するとともに、血液を採取しNPYなどの神経ペプチド含量を測定する。その後、気管支肺胞洗浄を行ない、肺を摘出する。肺のWet/Dry Ratio、肺組織中の神経ペプチド含量の測定を行い、肺水腫発生と神経ペプチドとの関連を探る。 また、In vivoでの検討として、血管内皮細胞と間質繊維芽細胞を共培養することで3次元的な血管モデルの作製を試み、NPYの細胞透過性亢進作用の有無を調べる。NPYに明らかな作用が認められた場合は、細胞内シグナル阻害剤を用い、細胞透過性亢進メカニズムを詳細に解明していく。さらに、確立済みの既存評価系を利用し、炎症性サイトカインや脂質メディエーターを種々の濃度で組み合わせて血管内皮細胞を刺激し、急性呼吸窮迫症候群モデルの作製を試みる。
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