研究課題/領域番号 |
15K10512
|
研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
澁田 達史 国際医療福祉大学, 医学部, 教授 (20324767)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 静脈麻酔薬 / 初代培養神経細胞 / 神経細胞死 / 細胞内カルシウム濃度 / 発達期 |
研究実績の概要 |
乳幼期における全身麻酔薬への曝露により神経毒性が発揮される懸念に関しては、麻酔科医のみならず広く社会的にも大きな問題とされ関心を集めている。我々は、妊娠ラットから摘出した胎児大脳皮質神経細胞より初代培養を行い、現在本邦にて汎用されている3種類の麻酔薬、チオペンタール(TPS), ミダゾラム(MDZ), プロポフォール(PPF)をそれぞれ培養日数(DIV)の異なる神経細胞に投与し、細胞死の状況を形態学的手法により調べ、さらに麻酔薬投与による細胞内カルシウム濃度([Ca2 +]i)上昇をカルシウムイメージング法によって調べることにより、中枢神経の発達に伴う麻酔薬の神経毒性の経時的変化を明らかにした。 その結果、DIV4では、全ての静脈麻酔薬により有意な[Ca2 +]iの上昇が認められた一方、有意な細胞生存率低下が認められたのはPPFだけであった。DIV8では、PPFでのみ[Ca2 +]i上昇並びに細胞生存率の低下が認められた。DIV13では、全ての麻酔薬でいずれの変化も認められなかった。 以上の実験データの解析処理を行い、日本麻酔科学会総会(2018年5月18日 横浜市)にて「初代培養大脳皮質細胞における静脈麻酔薬誘発性細胞内カルシウム濃度上昇の経時的変化」とのタイトルで学会発表を行い、総仕上げとして学術論文”Intravenous anesthetic-induced calcium dysregulation and neurotoxic shift with age during development in primary cultured neurons”がNeurotoxicology誌に掲載された。(69: 320-9;2018)本論文に関しては、麻酔科医向けの有力な雑誌であるLISAにも紹介され(25(11): 1217-8, 2018)るなど、大きな反響があった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、初代培養神経細胞を使用し、臨床麻酔で頻用されている静脈麻酔薬3種類の幼若神経細胞の各発達段階を示すと考えられる培養日数の差違による質的な影響に関する評価を調べることに成功した。 形態学的実験および、カルシウムイメージング法により蓄積された実験データの解析も完了し、これらの実験系の結果を踏まえた上で、日本麻酔科学会総会で発表を行い、指導的立場の医師らと各発達段階の小児における静脈麻酔薬の使用方法に関する有意義な考察や検討を行い、高い評価を得た。そして、このような活発な意見交換を盛り込み、新規原著論文”Intravenous anesthetic-induced calcium dysregulation and neurotoxic shift with age during development in primary cultured neurons” S. Shibuta, T. Morita, J. Kosaka.は神経毒学を扱う有力雑誌である Neurotoxicology に掲載されるという形で(69: 320-9, DOI: 10.1016/j.neuro.2018.08.002, 2018)で結実した。麻酔科医向けの有力な雑誌であるLISAにも紹介され(25(11): 1217-8, 2018)るなど、大きな反響があった。 一方で、新規所属研究施設の研究室整備に時間を要したため、MAPK及びその関連シグナルの阻害薬であるJNK阻害薬、MEK1/2阻害薬、PDK-1阻害薬、フォスフォリパーゼC阻害薬を投与し、細胞生存率に対する影響を調べる研究に関するデータの安定的な取得が進まなかった点やPC12細胞を使用した遺伝子導入条件の実験が当初の予定に比べて若干滞った点などを考慮したうえで、「2.おおむね順調に進展している。」との判断を下した。
|
今後の研究の推進方策 |
新規所属施設における研究室の整備が概ね軌道に乗ったため、今後の研究に関しては当初の通り進める予定である。 神経細胞の代表的なセルラインであるPC12細胞を使用し、LipofectamineTM RNAiMAX Transfection Reagent (Life technologies )による、遺伝子導入条件の確認を引き続き行う。具体的には、PC12細胞に対するsiRNAの導入状況の確認として、GAPDH遺伝子に対するsiRNA(ポジティブコントロールのsiRNA)を導入し、GAPDH遺伝子(ポジティブコントロールsiRNAがターゲットとしている遺伝子)がノックダウンできているかを確認する。このポジティブコントロールが成功した後に、siRNAによるNR-1, HIF-1α、p-53遺伝子の発現抑制モデルの導入条件の検討を順次行う。これらの検証をReal Time PCR法、及びウエスタンブロッティング法によって行う予定である。 遺伝子導入方法としては、費用の面や使用するsiRNA量による細胞毒性の点などから試薬(LipofectamineTM RNAiMAX)による導入を第一選択とする予定であるが、標的遺伝子のノックダウンが不十分である等、好ましい結果が得られない場合には、エレクトロポレーションによる遺伝子導入システム(Gene Pulser Xcell TM エレクトロポレーションシステム)の使用することとする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規所属研究施設である国際医療福祉大学成田キャンパスの研究室整備に予想外に時間を要した。しかしながら、研究室の整備が概ね軌道に乗ったため、今後の研究に関しては当初の通り進める予定である。 MAPK及びその関連シグナルの阻害薬であるJNK阻害薬、MEK1/2阻害薬、PDK-1阻害薬、フォスフォリパーゼC阻害薬を投与し、細胞生存率に対する影響を調べ、さらにPC12細胞を使用した遺伝子導入条件の実験を当初の予定通りに行う計画である。予算は動物購入並びに薬剤、培養器具など消耗品に充当する。
|