研究課題/領域番号 |
15K10514
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
小野 純一郎 香川大学, 医学部, 協力研究員 (90363217)
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研究分担者 |
樺山 一哉 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (00399974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 麻酔科学 / 麻酔学 / 揮発性麻酔薬 / 作用機序 / マイクロドメイン |
研究実績の概要 |
本研究は揮発性麻酔薬の作用機序解明の研究である。揮発性麻酔薬は神経シグナル伝達を修飾することで麻酔作用を発揮すると考えられているが、詳細なメカニズムは不明なままである。我々は脂溶性が高い揮発性麻酔薬が脂質二重膜へ非特異的に分布するという性質に着目し、膜に存在するマイクロドメインを主たるターゲットに研究を進めている。マイクロドメインは構造的に高密度のコレステロールとスフィンゴ脂質、受容体タンパク質を内包している。このような構造的特徴から、近年では細胞外から細胞内へのシグナル伝達において、マイクロドメインが細胞機能の制御に重要な役割を持つことが多数報告されている。 我々の研究手法としては、生きた細胞膜のマイクロドメイン成分、非マイクロドメイン成分、麻酔関連受容体を蛍光色素でラベリングし、麻酔薬を作用させたときの動態変化を解析するものである(=ライブセルイメージング)。ライブセルイメージングとは、文字通り生きた培養細胞を用いて、細胞膜上の蛍光標識した分子の動態を、共焦点レーザー走査型顕微鏡を使って薬物作用時にリアルタイムで観察する手法である。これまでの報告では、ライブセルイメージングを用いて麻酔作用機序を解析したものは見当たらない。従来からの人工膜を用いた報告により貴重な知見が蓄積されてきたが、複雑な生体膜への作用を理解する上ではライブセルイメージングが有効である。本研究計画では、3年間のうちに蛍光タンパクの標識設計と、ライブセルイメージングによる動態解析に大まかに分けていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進展している。平成27年度にはマイクロドメイン成分と非マイクロドメイン成分の標識を使った研究発表を日本麻酔科学会第62回学術集会で行った。実験前の予想に反し、HEK293T細胞のマイクロドメイン成分の動態は揮発性麻酔薬によって変化せず、非マイクロドメイン成分のみに変化が認められた(=膜貫通受容体の流動性の増加)。また、神経細胞を使った実験でも同様の傾向が認められたが、HEK293T細胞に比べると顕著であった。これらの結果は脂質二重膜の中でも揮発性麻酔薬に反応する成分とそうでない成分に分かれること、また細胞種によって反応性の大きさに違いがあることを示唆している。平成28年度は膜貫通受容体の流動性変化が揮発性麻酔薬によるものかを確認するために、分担研究者と共に可逆性確認実験に取り組んだ。この実験の特徴は、Y字型のマイクロ流体デバイスを用いていることである。これは半導体作製技術を応用してスライドグラス内に200マイクロメートル四方の断面を持つ微細流路を掘ったものであり、流路に置いた1つの細胞にフォーカスを当てて経時的に蛍光動態を追跡できるシステムである。麻酔薬を作用時と麻酔薬をウォッシュアウトした後の動態変化を1つの細胞を用いて経時的に測定できる。この実験結果は平成29年度日本麻酔科学会第64回学術集会で発表する予定である。 これらの研究と同時進行でGABAA受容体αサブユニットに標識を行うべく遺伝子設計を連携研究者と行ってきた。出来上がった標識遺伝子を株化細胞HEK293TとA9に導入を試みたが、細胞膜上の蛍光を確認できなかった。この問題を検討したところ、遺伝子発現プロモーターが弱い可能性があり、現在はプロモーターの改良に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、脂質二重膜に非特異的に分布した揮発性麻酔薬が、脂質のみならず受容体タンパク質の流動性に対しても影響を及ぼすことを示した。古くから揮発性麻酔薬は脂質膜の流動性を高める作用を持つことは知られていたが、その程度は約1度の温度変化で生じるものであることも分かっていた。人間の体温が上がるだけで全身麻酔が掛かることはないため、膜の流動性変化が麻酔作用機序の本態ではなく、その変化を増幅する機構の存在が予言されていた。今後は受容体の流動性がシグナル伝達に及ぼす影響を解明していく必要がある。既に膜受容体の側方拡散がシグナル伝達に影響を及ぼすとする報告ある。したがって、平成29年度以降は受容体流動性とシグナル伝達解析をリンクさせる形で行いたい。同時に麻酔関連受容体標識を完成させ、より直接的な作用機序解明に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予算で計上した金額の殆どは麻酔関連受容体の標識遺伝子作製と神経細胞培養に要する物品費用であった。平成28年度に作製した標識遺伝子を神経細胞に導入する前段階として、現有の株化細胞を用いて動作を確認したが、発現量不足だったため神経細胞培養に至っていない。神経細胞は遺伝子が非常に入りにくい性質を持ち、一般的に株化細胞で導入できない遺伝子は神経細胞には導入できない。現在は遺伝子設計の見直し作業(プロモーターの変更)を主に行っているため、次年度使用額が発生することとなった。また、分担研究者と共同で行っているマイクロ流体デバイス実験は分担者の保有資産を使用しているため、次年度使用額が発生することとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は修正した遺伝子を実際に作製して遺伝子導入を行う。その際にはラット胎仔脳神経細胞培養を行う予定である。
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