研究課題/領域番号 |
15K10538
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
河野 崇 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 講師 (40380076)
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研究分担者 |
横山 正尚 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 教授 (20158380)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 術後認知機能障害 / 術後せん妄 / マイクログリア / 脳内炎症 / デクスメデトミジン |
研究実績の概要 |
術後認知機能障害(POCD)の病態機序について高齢ラットを用いた基礎研究で検討した。今回手術モデルとしてイソフルラン麻酔(1.0-1.2%: 高齢ラットの1.0MACに相当)下に腹部正中切開および小腸の刺激を行った。本モデルにおいて術後1-2週間後に海馬での炎症性サイトカインの増加が認められた。小腸への刺激を行わない単純開腹手術では海馬炎症性サイトカインの増加は生じなかった。一方, 認知機能試験として新奇物体認識試験を用いて新規物体への嗜好性を指標として評価した。その結果, 術後の海馬サイトカイン濃度と新奇物体への嗜好性には有意な負の相関関係が認められた。術後の海馬サイトカインの増加および新奇物体への嗜好性の低下は若年ラットでは生じなかった。 高齢動物の術後において海馬サイトカインが増加しやすい原因を検討した。高齢および若年動物の海馬マイクログリアを単離し, エンドトキシンに対する炎症性サイトカインの放出応答を解析した。その結果, 高齢群は若年群と比較して海馬マイクログリアの炎症反応性の亢進が認められた。高齢ラットにおいて海馬マイクログリアの炎症反応性の増加は対照動物と開腹手術動物間で差がなかったことから, マイクログリアの変化は麻酔・手術侵襲によるものではなく加齢による変化であると考えられた。 高齢動物から単離したマイクログリアに対するデクスメデトミジンの効果を検討した。その結果, デクスメデトミジンは推定臨床使用濃度においてマイクログリアの過剰な炎症反応性を抑制することが明らかとなった。この反応はアドレナリンα受容体拮抗薬の前投与により棄却されたことからアドレナリンα受容体を介する作用であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は, 高齢ラット開腹手術によるPOCD発症モデルを用いて, POCDの発症機序における海馬マイクログリア機能, および神経炎症 (サイトカイン) 反応の役割を明らかとするとともに, それらに機序に基づく術前身体・認知訓練のPOCD予防効果を検討することである。また, 当該年度においては, 1) POCD発症機序における中枢神経炎症・サイトカインの役割を明らかとする, 2) POCD発症における加齢の影響を明らかとする, こと目標とした。 1)に関しては, 高齢ラットに開腹手術を行うことによるPOCD発症モデルを構築することができた。さらに, 行動評価 (自発運動量側的, 認知機能試験)と神経炎症 (サイトカイン・マイクログリア機能) の変化の関連性を詳細に検討することにより, POCDの発症契機, 経時的変化を含めた機序の解明を行うことができた。2)に関しては, 高齢ラットモデルで得られた結果を, 若年ラットと比較することにより, POCDが高齢者に生じる背景因子をマイクログリア”priming”現象を中心に検討できた。特に, 海馬マイクログリアを単離し, リポポリサッカライドに対する炎症反応性を検討する実験系を確立できたことは今後, 脳内炎症を標的としたPOCD予防戦略を検討するために有用となることが考えられる。 これらの成果に加えて, 現在臨床使用の高い麻酔補助・術後鎮静薬であるデクスメデトミジンの海馬マイクログリアに対する影響も検討することができた。今後の臨床応用も含めて重要な知見となったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究計画書に沿った研究を継続する。具体的には, これまでの成果に基づき, 1) 術前身体・認知介入のPOCD発症予防効果・機序を明らかとする, 2) 臨床におけるPOCDの発症状況および術前介入の可能性についての予備調査を行う, 3) 高齢手術患者のPOCD予防のための術前身体・認知介入の臨床効果を検証する, ことを目標とする。 この中でも特に, 臨床に応用できる術前身体・認知介入プログラムの作成することを最優先させたい。長期的な身体・認知訓練の認知機能改善効果は広く受け入れられている。今回, 動物実験での解析結果を踏まえつつ, POCD予防という観点から高齢者 (65歳以上) に対する術前身体・認知訓練プログラムを作成する。身体訓練は, 呼吸筋, 嚥下機能, 転倒予防を兼ねたプログラムを作成する。認知訓練は, 拮抗運動 (左右・前後で拮抗的な運動; fMRIで前頭葉, 海馬の血流増加が報告されている) を中心にプログラムを作成し, ボランティアによる妥当性試験を行う予定である。その上で, 術前身体・認知介入の動物実験および臨床調査の結果を考慮しながら, 術前身体・認知介入のPOCD予防効果の臨床試験を行う。重篤な合併症のない高齢患者で定型的な外科手術受ける患者を無作為に介入あり・なしに振り分けて, 基準値 (介入前), 介入後 (手術前), 術後2週間, 術後3週間の認知機能を評価したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、研究経過の遅延によりELISA法に用いたLysis buffer試薬が1回分少なかったことが挙げられる。
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次年度使用額の使用計画 |
今回生じた次年度使用額は当初の目的どおりELISA法に用いるLysis buffer試薬の購入に充てる。その他, 次年度の研究計画に変更は予定していない。
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