1.1H-NMRによる試料測定手法の確立として,まず検体(尿,血漿)にpH調整のためのPBSと重水(Lock用)に溶解した標準物質(TMP)を添加したものを試料として,1H-NMR測定を行った。生体由来の検体に含まれる軽水由来のピークを抑制するパルスシークエンスとして,CPMGと呼ばれる手法を応用した水消しプログラム(CPMGpr1d)を選択した。加えて,磁場の均一性を向上させるため,メーカー推奨の磁場調節(shim調節)よりも高次の調節を行い,よりシャープなスペクトル取得を実現した。 2.1で取得したスペクトルを解析するために,研究期間の1年目にNMRメタボロミクス用解析ソフトウェア(AMIX)とデータベースを導入し,技術者による講習を行い,基本的な解析技術を習得した。研究期間3年目には,データベースにデータを追加し,解析できる化合物を増強した。 3.実際のメタボロミクス解析において,上記1および2の妥当性を検証するため,ラット血漿を用いた実験を行った。 (a) 採取した血漿をフリーザーで凍結保存して測定することはしばしば行われるが,一旦解凍した検体を再凍結して後日再び測定することは通常行われない。ラット血漿の解凍-再凍結を繰り返してメタボロミクス解析を行い,解凍-再凍結の繰り返しによるスペクトルの変化の有無を検討した。 (b) 採血直後の血漿を対照として,同一試料の解凍-再凍結を複数回繰り返してその都度1H-NMRスペクトルを測定した。得られたスペクトルはAMIXにより主成分分析を行った。 (c) 同一試料の解凍-再凍結を繰り返した場合,測定値は主成分平面上のほぼ同じ点に集中した。即ち,解凍-再凍結を繰り返しても得られたベクトルのばらつきは,他の試料との差よりも小さかった。しかし,特定のピークでは減少や増加がみられる場合もあり,一概に変化しないとは言えないことも明らかであった。
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