認知症の代表であるアルツハイマー型の病理像の特徴は、アミロイドβ(Aβ)の凝集による老人斑と神経原線維変化(微小管凝集、Tau異常リン酸化)である。これまでに、培養神経細胞とPC12細胞において、各種静脈麻酔薬のアミロイドβ(Aβ)凝集に与える影響を明らかにした。プロポフォール、バルビタール、ミダゾラムは影響が少なく、一方でケタミン、ハロペリドールはAβ分解を阻害してAβ集積につながる可能性がわかってきた。また、正常マウスへの投与により、脳(in vivo)においてin vitroの研究と同様の結果を得ることができた。アルツハイマーモデル動物でも同様の結果を得るために、SP2マウス+Tg25761の交配を行ったが、研究に適した病期の発見ができなかったため、他のモデルを模索しているところである。 ひとまず、正常マウスでの研究を進めるため、セボフルラン吸入後の認知機能低下をきたすモデル(術後認知機能低下モデル)を完成した。セボフルランの吸入により不安行動や記憶力の低下をきたすことが明らかとなった。本モデルを用いて、今後治療法の開発を進める予定である。 治療薬の候補として、いくつかの物質を検討した。σ1受容体作動薬であるSKF10047は、培養アストロサイトにおけるGM1ガングリオシド発現を増強し、Aβのアストロサイトへの輸送を促進することが明らかとなった。また、エピガロカテキンはアストロサイトからのネプリライシン分泌を促進し、細胞外に存在するAβの分解を促進することがわかった。現在、術後認知機能低下モデルへの効果を検証しているところである。さらに、アルツハイマー型認知症モデルを確立できれば、吸入麻酔による認知機能増悪モデルを作成し、二つの物質の予防効果を確認する予定である。同時に、プロポフォールなど安全性が確認できている麻酔薬の安全性を、モデル動物でも確認する予定である。
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