研究実績の概要 |
【背景】高度侵襲を伴う大手術では、近年、1回拍出量変化量(SVV)を指標として輸液を行うことにより、心臓の前負荷を適切に保つことが推奨されている。一方、大手術中は、全身麻酔薬により血管が拡張するため、血管収縮薬を持続的に投与することにより、血圧を維持することが多い。しかし、血管収縮薬は静脈系を収縮させることにより、静脈かん流を増加させ、心臓の前負荷を増加させる。本研究では、肝切除において血管収縮薬の持続投与がSVVを指標とした輸液量に違いをもたらすかを検討した。 【方法】全身麻酔下、肝切除術を施行された51名の患者を対象とした。患者を無作為にコントロール群(C群)、フェニレフリン持続投与群(P群)、ノルエピネフリン持続投与群(N群)の3群(各17名)に割りつけた。手術開始から手術終了までSVV >12% となった時に4 ml/kgのヒドロキシエチルデンプン製剤をボーラス投与した。術中の総輸液量(ml/kg/h)を3群間で比較した。 【結果】術中の総輸液量は、3群間で有意な差を認めなかった(C: 7.3 [1.7]; P: 6.9 [1.5]; N: 7.2 [1.5], ml/kg/h, P=0.75). ボーラス終了時のSVV は、P群とN群はC群(12.3 [6.0] %, 90 boluses)にくらべて有意に小さかった (P: 10.3 [5.4] %, 87 boluses, P=0.02; N: 10.9 [3.9] %, 106 boluses, P=0.04)。 【考察】血管収縮薬の持続投与は、肝切除中の総輸液量に有意な差をもたらさなかった。今回、SVVを指標として輸液を行ったことから、この理由として、ボーラス終了時のSVV減少の違いがコントロール群にくらべてわずかであったことがあげられる。
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