局所麻酔薬リドカインは、静脈内投与によって神経障害性痛や術後痛を和らげる作用がある。しかしながら、その鎮痛機序はナトリウムチャネルの阻害作用だけでは説明できず、不明な点が残されている。本研究では、リドカイン代謝産物であるmonoethylglycinexylidide(MEGX)に着目し、その鎮痛作用について研究を行った。 昨年度までの研究によって、MEGXは興奮性伝達物質の放出を抑制するとともに抑制性神経伝達物質の放出を促進すること、しかし神経根を刺激することによって起こる興奮性伝達機構を抑制しないこと、ラットの炎症性疼痛モデルに対しては、MEGXのくも膜下投与による鎮痛作用は明らかではないことが分かった。 昨年度までの結果からは、MEGXが真に鎮痛作用を有するかどうかが明らかではなかったため、手技的な確実性、モデルの妥当性などを研究グループ内で再検討した。その結果、本年度は動物種をマウスに、疼痛モデルを術後痛(足底切開)モデルへと変更した。また、MEGXの用量もいくつか試すこととした。 マウス足底切開モデルに対しては、MEGXのくも膜下投与によって、疼痛閾値の低下が認められたのに対し、生理食塩水では疼痛閾値は変わらなかった。 得られたデータを整理すると、MEGXは脊髄において、抑制性伝達物質の放出を促進する作用があり、それによって鎮痛作用を発揮していることが示唆された。このことがリドカイン静脈内投与によって得られる鎮痛機序の一部を担っている可能性がある。
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