研究課題/領域番号 |
15K10575
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
伊藤 一人 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00302472)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 前立腺癌 / 前立腺特異抗原 / proPSA / 遊離型PSA |
研究実績の概要 |
PSA及び[-2]proPSA(p2PSA)関連インデックス、それらのインデックス動態の前立腺癌進展予測因子としての有用性について症例対照研究により検証を行った。平成27年度は、PSA基礎値が2.0ng/ml以下と低く、臨床的に前立腺癌の存在を疑わない時期の保存血清を用いてp2PSAおよびfree PSAを測定し、p2PSA、free PSAおよびtotal PSAを組み合わせたp2PSA/ PSA関連インデックスが将来の臨床癌進展リスクを予見できるか否かについて検討を行った。対象はベースライン検診受診時の年齢が79歳以下・PSA基礎値が2.0 ng/ml以下で、その3-10年後の検診にてPSA上昇を契機に前立腺癌が診断された150例(症例群)と、ベースライン検診受診時の年齢、PSA基礎値、ベースライン検診から最終検診の間隔をマッチさせた非前立腺癌男性300例(対照群)である。検証したPSA関連インデックスは、free PSA/total PSA (%fPSA)、p2PSA関連インデックスはp2PSA/free PSA (%p2PSA)、p2PSA/%fPSA、phi(prostate Health Index; p2PSA/free PSA x √PSA) である。 平成27年度はベースライン検診受診時の各インデックスの将来の臨床癌進展予見因子の検討を行なった。症例群と対照群におけるベースラインの総PSA値の中央値は、それぞれ1.41ng/ml、1.30ng/mlと差が無く、%f-PSAの中央値は、それぞれ17.0%、22.0%と有意に症例群の%f-PSAが低くなった。p2PSA関連インデックスは症例群と対照群で有意差のある因子はなかった。%f-PSAを全450症例の中央値、3分位、4分位、5分位で分けた場合、最も%f-PSAが低い群の癌罹患危険率と最も高い群の癌罹患進展リスクのオッズ比はそれぞれ、2.81、4.00、4.87、6.08となった。 PSA値が2.0ng/ml以下の時点において、3~10年後に臨床癌へ進展した症例と進展の無い男性は、%f-PSA値に有意差を認め、臨床癌進展の予測因子になる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究は、すでに研究開始時点で当院での倫理審査委員会の承認をを受けており、また研究対象の抽出は、大規模のデータベース及び、血清バンクからの抽出であったために、当初は平成27年度に症例群、対照群の計300例、平成28年度に150例の症例抽出と血清の確保を行う予定であったが、27年度中に450例の症例抽出と血清の確保ができた。 両群ともにベースライン検診受診時の、合計4500検体の凍結保存血清を用い、p2PSA、free PSA、total PSAの測定を行ったが、すべての血清検体の測定は、ベックマンコ―ルター株式会社ダイアグノスティックス学術統括部門・三島事業所内三島ラボラトリ―で、全自動測定分析機器UniCel DxI800(Dxl)を用いて、順調に測定できたことから、おおむね当初の計画通りに研究が進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、症例群、対照群の計450例の最終検診受診時の血清を用いた、p2PSAおよびfree PSAを測定する。27年度に測定したベースライン検診受診時のデータと合わせて、ベースライン時と最終受診時の間のp2PSA/ PSA関連インデックス動態について、癌罹患予見因子としての意義を検証する。また、症例群においてベースライン検診時、及び癌診断時のp2PSA/ PSA関連インデックス、p2PSA/ PSA関連インデックス動態について、前立腺癌の生物学的悪性度の指標として、臨床病理学的特徴(TNM分類、癌診断時PSA値、Gleason score、生検での腫瘍長、生検陽性率など)との関連性について検証を行い、生物学的高悪性度癌進展リスクの有望な予見因子を探索する。 平成29年度には以下の2つの検証を行う予定である。 1)p2PSA/ PSA関連インデックス・p2PSA/ PSA関連インデックス動態と前立腺癌の治療転帰との関連性の検証:前立腺癌症例の転帰(生化学的再発、臨床的再発、転移癌進展、癌特異死亡など)を調査し、平成27・28年度の症例対照研究で臨床癌進展予測因子として有望であったp2PSA/ PSA関連インデックス、p2PSA/ PSA関連インデックス動態と前立腺癌の治療転帰との関連性を調査し、既存の予見因子(臨床病期、Gleason scoreなど)を含め、治療転帰を予測する因子の再検証を行う。 2)p2PSA/ PSA関連インデックス(動態)を含めた臨床癌進展リスク、高悪性度癌進展リスク予測ノモグラム作成:有望なp2PSA/ PSA関連インデックス、p2PSA/ PSA関連インデックス動態を用いて、PSA基礎値・年齢と組み合わせた検診受診者の臨床癌進展リスクノモグラム、可能であれば高悪性度癌進展予測ノモグラムの作成を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度の研究対象はベースライン検診受診時の年齢が79歳以下・PSA基礎値が2.0 ng/ml以下で、その3-10年後の検診にてPSA上昇を契機に前立腺癌が診断された150例(症例群)と、ベースライン検診受診時の年齢、PSA基礎値、ベースライン検診から最終検診の間隔をマッチさせた非前立腺癌男性300例(対照群)のベースラインの血清のみ測定したことににより、合計450検体と当初の計画より少なかった事、また旅費が計画より少なかったことにより、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
28年度は、27年度に抽出した450例について、最終検診受診時の血清の450検体に加え、必要に応じて、癌症例と非癌症例の検体を追加すること、また、研究成果が出ると予測されることから、国内外の学会出張経費に充てる予定である。
|