去勢抵抗性前立腺癌の進展に対するガレクチンー3の腫瘍制御機構の解明と臨床応用

2016 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 15K10592
• 研究機関: 徳島大学
• 研究代表者: 福森 知治 徳島大学, 病院, 講師 (10314874)
• 研究分担者: 金山 博臣 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 教授 (10214446) ; 高橋 正幸 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 准教授 (50325255)
• 研究期間 (年度): 2015-04-01 – 2018-03-31
• キーワード: 前立腺癌 / ガレクチン-3 / 破骨細胞 / 骨芽細胞

研究実績の概要

前立腺癌細胞へのホルモン療法に対するガレクチン－３の影響と作用機序の解析
ホルモン感受性LNCaP細胞とガレクチンー３強発現LNCaP細胞（LNCaP-Gal-3）の遺伝子発現の差をマイクロアレイアッセイで網羅的に解析したところ、LNCaP-Gal-3細胞では、KLK3やTMPRSS2などのアンドロゲンレセプター（AR）関連遺伝子の発現が有意に高く、抗アンドロゲン剤であるビカルタミドやエンザルタミド投与でこれらの遺伝子発現は十分に抑制されなかった。また、LNCaP-Gal-3細胞ではジヒドロテストステロン（DHT）投与でPSA転写活性とPSAの発現が有意に促進され、抗アンドロゲン剤投与時のPSA発現および転写活性抑制に抵抗性を示し、抗アンドロゲン剤耐性に関与することが証明された。

マウス前立腺癌モデルによるホルモン療法に対するガレクチン－３の影響と作用機序の解析
ホルモン感受性LNCaP細胞とガレクチン－3強発現細胞株（LNCaP-Gal-3）をヌードマウスの皮下に移植し、腫瘍が定着後に去勢術を施行したところ、LNCaP細胞では腫瘍は縮小したのに対してLNCaP-Gal-3細胞では縮小することなく増大傾向を示した。これらの腫瘍を摘出しマイクロアレイアッセイで網羅的に解析したところ、LNCaP-Gal-3細胞ではVEGF関連遺伝子、特にVEGFBの発現が有意に上昇し、ビカルタミドとエンザルタミド投与でこれらの遺伝子発現は十分に抑制されなかった。さらにLNCaP-Gal-3細胞では血管新生密度が有意に高いことも証明され、ガレクチン－3が血管新生を調節することでホルモン抵抗性に関与することが証明された。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度、われわれは、ガレクチンー３がホルモン感受性前立腺癌細胞であるLNCaP細胞のAR下流の様々な関連遺伝子の発現と転写活性を調節し、抗アンドロゲン剤であるビカルタミドやエンザルタミドに抵抗性であることを証明した。さらに、マウスのXenograft modelでガレクチンー３がVEGF関連遺伝子を調整し血管新生を促進させることでホルモン治療抵抗性に関与していることを証明した。
これらの成果は、111th American Urological Association's (AUA) Annual Meeting（2016年5月）、第75回日本癌学会学術集会（2016年10月）、32nd Annual European Association of Urology (EAU) Congress (2017年3月)で研究発表され、さらにAnticancer Researchの第37巻125－134ページ（2017年）に論文掲載された。
以上より、本年度の研究成果は国際学会を含む様々な学会で報告され、その成果の一部は英文誌に掲載されており、おおむね順調に進展していると考えられた。

今後の研究の推進方策

現在までの研究成果を踏まえて、去勢抵抗性前立腺癌の克服に向けて、ガレクチンー３の臨床への応用を目標に研究を推進させる予定である。すなわち、われわれが既に構築している数種類のガレクチンー３のブロッキング抗体とsiRNAを使用し、ガレクチンー3を強発現した前立腺癌細胞株（PC-3、DU-145）に対するガレクチンー３抑制効果をマウス前立腺癌転移モデルで検討する。さらに、抗がん剤治療、放射線治療とガレクチンー３の相加・相乗効果を検討し、ガレクチン－３をターゲットにした前立腺癌に対する遺伝子治療への応用を最終目標とする。

研究成果

• [雑誌論文] Galectin-3 Is Implicated in Tumor Progression and Resistance to Anti-androgen Drug Through Regulation of Androgen Receptor Signaling in Prostate Cancer. (2017)
  • 著者名/発表者名: Dondoo TO,Fukumori T, Daizumoto K, Fukawa T, Kohzuki M, Kowada M, Kusuhara Y, Mori H, Nakatsuji H, Takahashi M, Kanayama HO
  • 雑誌名: Anticancer Reserch 巻: 37 ページ: 125-134
  • DOI: 10.21873/anticanres.11297
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Clinical characteristics of testicular germ cell tumors in patients aged 50 years and older: A large-scale study from the Cancer Registration Committee of the Japanese Urological Association (2016)
  • 著者名/発表者名: Kawai T,Tanaka Y,Ohyama C, Kanayama H, Fujimoto H, Miki T, Nishiyama H, Suzuki K, Eto M, Nakanishi H, Fukumori T, Naito S
  • 雑誌名: International Journal of Urology 巻: 24 ページ: 124-128
  • DOI: 10.1111/iju.13268
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] The Involvement of Hepatocyte Growth Factor-MET-Matrix Metalloproteinase 1 Signaling in Bladder Cancer Invasiveness and Proliferation. Effect of the MET Inhibitor, Cabozantinib (XL184), on Bladder Cancer Cells (2016)
  • 著者名/発表者名: Shintani T,Kusuhara Y, Daizumoto K, Dondoo TO, Yamamoto H, Mori H, Fukawa T, Nakatsuji H, Fukumori T, Takahashi M, Kanayama H
  • 雑誌名: Urology 巻: 101 ページ: 169.e7-169.e13
  • DOI: 10.1016/j.urology.2016.12.006
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [学会発表] Galectin-3 is involved in the progression of castration-resistant prostate cancer through the regulation of tumor invasion, angiogenesis and androgen receptor signaling (2017)
  • 著者名/発表者名: Tomoharu Fukumori,Dondoo T-O, Daizumoto K, Fukawa T, Yamamoto Y, Yamaguchi K, Takahashi M, Kanayama H-O
  • 学会等名: EAU
  • 発表場所: ExCel London （United Kingdom・London)
  • 年月日: 2017-03-24 – 2017-03-28
  • 国際学会
• [学会発表] HGF-MET-MMP and VEGF-C signaling as a potential target for invasive bladder cancer therapy (2017)
  • 著者名/発表者名: Terumichi Sintani,Daizumoto K., Fukawa T., Nakatsuji H., Fukumori T., Takahashi M., Kanayama H
  • 学会等名: EAU
  • 発表場所: ExCel London （United Kingdom・London)
  • 年月日: 2017-03-24 – 2017-03-28
  • 国際学会
• [学会発表] Galectin-3 は前立腺癌細胞においてチロシンキナーゼ受容体およびTGF-β シグナルを介してアンドロゲン非依存性癌進展を調節する (2016)
  • 著者名/発表者名: 大豆本圭、福森知治、ドンドォツォクトーオチル、小和田実、新谷晃理、布川朋也、中逵弘能、高橋正幸、金山博臣
  • 学会等名: 日本癌学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（神奈川県・横浜市）
  • 年月日: 2016-10-06 – 2016-10-08
• [学会発表] 癌悪液質における脂肪酸酸化の役割 (2016)
  • 著者名/発表者名: 布川朋也、新谷晃理、大豆本圭、福森知治、高橋正幸、金山博臣
  • 学会等名: 日本癌学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（神奈川県・横浜市）
  • 年月日: 2016-10-06 – 2016-10-08
• [学会発表] TLR4 低発現はSPRR family 遺伝子の発現上昇を介して膀胱癌細胞の浸潤を増強する (2016)
  • 著者名/発表者名: 小和田実、大豆本圭、新谷晃理、ドンドォツォクトーオチル、布川朋也、中逵弘能、福森知治、高橋正幸、金山博臣
  • 学会等名: 日本癌学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（神奈川県・横浜市）
  • 年月日: 2016-10-06 – 2016-10-08
• [学会発表] 膀胱癌浸潤におけるHGF-MET-MMP signaling の役割とMET 阻害剤の有効性 (2016)
  • 著者名/発表者名: 新谷晃理、大豆本圭、布川朋也、中逵弘能、福森知治、高橋正幸、金山博臣
  • 学会等名: 日本癌学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（神奈川県・横浜市）
  • 年月日: 2016-10-06 – 2016-10-08
• [学会発表] 進行性腎細胞癌におけるアキシチニブの有効性とインスリンレセプター発現の関連性 (2016)
  • 著者名/発表者名: 高橋正幸、大豆本圭、楠原義人、布川朋也、福森知治、金山博臣
  • 学会等名: 日本癌学会
  • 発表場所: パシフィコ横浜（神奈川県・横浜市）
  • 年月日: 2016-10-06 – 2016-10-08
• [学会発表] Galectin-3 is implicated in the progression of castration-resistant prostate cancer through the regulation of angiogenesis and androgen receptor signaling (2016)
  • 著者名/発表者名: Fukumori Tomoharu, Kei Daizumoto, Dondoo Tsogt-Ochir, Yasuyo Yamamoto, Kunihisa Yamaguchi, Masayuki Takahashi, Hiro-omi Kanayama
  • 学会等名: AUA
  • 発表場所: San Diego Convention Center（San Diego・USA）
  • 年月日: 2016-05-06 – 2016-05-10
  • 国際学会
• [学会発表] Low expression of Toll like receptor 4 is associated with squamous differentiation in bladder cancer (2016)
  • 著者名/発表者名: Terumichi Shintani,Kei Daizumoto, Kento Hirayama, Dondoo Tsogt-Ochir, Megumi Tsuda, Yoshito Kusuhara, Hidehisa Mori, Junichiro Kagawa, Tomoya Fukawa, Yasuyo Yamamoto, Kunihisa Yamaguchi, Tomoharu Fukumori, Masayuki Takahashi, Hiro-omi Kanayama
  • 学会等名: AUA
  • 発表場所: San Diego Convention Center（San Diego・USA）
  • 年月日: 2016-05-06 – 2016-05-10
  • 国際学会
• [学会発表] 去勢抵抗性前立腺癌に対する新規薬剤（アビラテロン、エンザルタミド）の初期使用経験 (2016)
  • 著者名/発表者名: 福森知治、赤澤早紀、大豆本圭、津田恵、楠原義人、森英恭、香川純一郎、布川朋也、新谷晃理、山口邦久、山本恭代、高橋正幸、金山博臣
  • 学会等名: 日本泌尿器科学会総会
  • 発表場所: 仙台国際センター会議棟・展示棟 東北大学百周年記念会館（宮城県・仙台市）
  • 年月日: 2016-04-23 – 2016-04-25